介護保険もこの世に生まれて3年目となり,そろそろ目鼻だちも見えてきた。生まれる前の勝手な決めつけを前提にした,あれやこれやの議論や批判は影をひそめ,育ててゆくべき方向について地に足が付いた論議がようやくできるようになってきた。人間でいえば「三歳児検診」を受ける時期だ。
現在の利用者市民―特に要介護者の家族にとって,もっとも関心のある問題のひとつが「施設不足」であることは論を待たない。この数年間,介護施設は急速に増えたにもかかわらず,施設入居の待機者(正確には「希望者」)が介護保険スタート以前の数倍になった,という報道に多くの市民が不安や不満を抱いている。
そこで利用者による施設の「自由選択」といううたい文句から明らかに後退した,施設側による入居希望者の「優先度(家族の困り具合)による選択」という方法が実際に動きはじめた。措置制度の時代への逆行だ,という指摘はその通りだと思う。施設整備の補助金を出す側の地方自治体には,施設側の入居者の選択権を持たせて欲しいという要求に対して,あくまで申し込み順を主張してきたところが多く、困惑している。
このような,ある意味で時代錯誤的な方針が採用された背景としては,施設入居希望者の施設利用についての「切実さ」を再度問い合わせ,「軽い気持ちで」早めに申し込んでおこう,という希望者を一度振るい落とし,「真の」入居希望者に絞り込みたいということと,「困っている方から優先的に入っていただいております」というロジックで,入居待機者の気持ちをなだめようという意図がある。
この方法には多くの問題点や矛盾が内包されており,特に利用者の「家族の困窮度」を点数化するという,破天荒な方法論がいつの間にか採用されていて驚く。家族の主観的な自己申告の内容をもとに点数化するというのが最大の疑問点だが,本人給付を根幹とする介護保険の理念に明らかに逆行している。
介護施設は介護サービス基盤政策である,二次にわたる「ゴールドプラン」によって,「三日間に一施設」という未曽有のペースで整備され,介護保険発足時の2000年4月末に52万人分に達した。施設整備はさらに継続され,2003年12月末では191万人分にまでなった(介護保険事業状況報告)。
一方居宅サービスの利用者はといえば,2000年4月末で97万人であったのが2003年末で191万人に増加。介護保険発足時と比較すると,居宅では約100%,施設でも約40%の増加である(同報告)。
両方を合わせると,全体で70%以上という,社会的介護サービスの普及という観点からは順調に基盤整備は進んだはずである。にもかかわらず,「施設不足」を来している状況について,この辺で十分な検討が必要なのではないか。その背景には高齢障害者の独居の「安全確保」への不安と,家族同居の場合の「家族の問題」が,十分に解消されていない事態がある。特に独居高齢者の問題が取り残されたままだ。
措置制度の時代から,施設介護はまがりなりにも存在したが,社会的サービスによる在宅介護,特に巡回型ホームヘルパー派遣はゼロに等しかった。社会サービスによる「在宅」介護の歴史はわが国では非常に浅い。このあたりで,重い介護度の高齢者を介護保険の給付でどの程度まで支えることができるのか,きちんと検証すべきではないか。「介護保険三歳児検診」の最大のポイントの一つだと思う。
●プロフィール● (敬称略)
岡本祐三(1943.11.25日生)
阪南中央病院内科医長・健康管理部長(1974-1996)
神戸市看護大学教授(1996-2001)
痴呆ケア研究検討委員会委員(1998-2000)
NPO介護保険市民オンブズマン機構大阪代表理事(1999-)
兵庫県介護保険サービス苦情処理委員会会長(2000-)
国際高齢者医療研究所 岡本クリニック院長(2001-) 現職
<著 書>
「デンマークに学ぶ豊かな老後」 朝日新聞社・朝日文庫
「医療と福祉の新時代」日本評論社 他 多数 |
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