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アカデミックラウンジ
介護保険の課題(1)

京都光華女子大学  人間関係学部
教授 小國 英夫


−介護保険の第1期を終えて、何点と採点されますか?


 一般的に、行政側としてはずいぶん高い点数をつけているといわれていますが、私は70点くらいだと思います。足りない30点は何かというと、一つ目は、もっと「市町村の保険」という特長がでてきてもよいのではないか、ということです。介護保険は、地方自治の一つの大きな課題といわれているわけですから、もっとそれぞれの市町村が自己主張してもよかったと思います。第2期の計画においても第1期と同じように国が参酌標準を示したことなどから、画一的なものとなりました。
 また、介護保険では、サービスの供給システムとして介護保険とケアマネジメントが初めて結び付けられました。国としては、世界初の試みで上手くいったといっています。しかし、サービスをコーデイネートしているだけで、高齢者の方々がおかれている社会の状況の改善にはあまり結びついていない気がします。われわれはもっとケアマネジメントにソーシャルワーク的な機能を期待していたのですが、サービス提供事業者がケアマネジャーを雇用しているという状況で、そうした展開にはなりませんでした。また、現役のケアマネジャーの中にはソーシャルワークの訓練を受けていない人が少なくないことも要因だと思います。
 もう一つは入所施設への依存が高いことです。もともと介護保険は、在宅の暮らしを支えるためにスタートしたのです。しかし結果は、施設への入所を大きく刺激することになりました。それは、ケアマネジャーも含めたサービス提供サイドが、在宅では十分なケアができないという意識を直接、間接に利用者や家族に植え付けているからです。十分なケアは入所しない限り保障されないと思わせているのです。

―第一ポイントの「独自性」についておきかせください。

 たとえば、介護保険サービスについて、自治体はもっと種類を増やしていったらよいと思います。もちろん、そうすれば保険料も高くなりますが、それも一つのやり方です。あるいは、サービスの種類によって自己負担の方式を変えることも考えられます。
 今、逆デイサービスがすばらしい試みとして取り上げられています。入所している人たちは在宅サービスを使えないという状況のなかで、入所者に対して施設外でのケアを試みているのです。入所者は今まで年に数回、外出やお買い物などをしていました。でもこれからは、在宅の人であれ、施設の人であれ、地域の資源を同じように使えるというシステムを考えていかなくてはならないと思います。施設入所者は、多くの場合、在宅サービス利用者との交流がありません。逆デイでも自分たちだけで出て行っている。グループホームも外出は自分たちだけです。ですから、在宅サービスと施設サービスをもっと流動化させることを考えていくことが必要でしょう。

−ケアマネジャーがソーシャルワーク的な機能を備えるためには、今後どうしていくべきでしょうか。

 例えば、医療保険制度では、何かするためのインセンティブを働かせようと、点数を上げたり下げたりしてきました。このような形でしかコトが動かないのは、大変悲しいことです。
 以前、作業療法士の研修会に何度か関わっていたことがあるとのですが、その時も、病院では、ハビリ室でのリハビリしか点数にならないため、点数にならないことはやらないということでした。
 今さら日本型ケアマネのシステムを止めるわけにはいかないという前提で考えるならば、介護サービスを医療保険のように種類ごとに出来高で単位化していくのではなく、「ケアマネジメントそれ自体が、ソーシャルワークでなくてはならない」というふうになる必要があるのです。
 ケアマネジャーというのは、単なるサービスブローカー、サービスコーディネーターではなく、介護が必要になってもその人らしく生きていける状況をいかにサポートしていくか、という役割を担っています。ですから、用意されたサービスをどう組み合わせるか、ということだけが仕事ではありません。サービスをどう組み合わせて提供するかは、ケアマネジメントの単なる1つの結果なのです。大事なのは、当事者や家族が自分たちの状況にしっかり向き合って、どういう生活をつくっていくかということで、ケアマネジメントとは、その過程に関わってどうサービスを用意(必要があれば開拓することも含めて)していくかを考えることだと思います。

(次号へ続く・・・)

●プロフィール● (敬称略)
小國 英夫(1938年 京都市生まれ)
愛知県立大学、四天王寺国際仏教大学を経て、2002年京都光華女子大学人間関係学部社会福祉学科教授に就任

<著書・共著など>
『高齢者福祉概論』学分社2002、『社会福祉施設』友斐閣1999、『現代社会とジェンダー』ユニテ1995、『寝たきり老人はつくられる』中央法規出版1991など多数。

 

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