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アカデミックラウンジ
介護保険の課題(2)

京都光華女子大学  人間関係学部
教授 小國 英夫


―施設と在宅のサービス利用を比較すると非常に施設サービスへの傾斜がすすんでいますが、どうすれば、アンバランスを是正できますか。


 介護保険制度が始まった当初にいわれていたのは、在宅サービスの基盤整備を進めることでした。しかし、在宅サービスを豊富に用意したらもっと多くの人が在宅に留まるかというと、必ずしもそうではありません。ある意味で、たくさんのサービスが用意されるということは、施設ケアに限りなく近づくということです。となると、本人も家族も次は施設入所だと思ってしまう。つまり結果的には無意識のうちに「施設的ケアのお試し」をやっているわけで、どんどんと気持ちは施設入所に進んでいくことになると思うのです。
 在宅で、24時間・356日型のサービス利用を可能にすることは、在宅サービスの到達点だといわれています。しかしそれは、「これ以上必要なら施設へどうぞ」といざなっている感があります。ですから、在宅でのサービスを豊富にするだけでなく、住宅や福祉用具などハードの面を含めて、地域で気持ちよく暮らせるための家族関係や地域関係などインフォーマルな関係が成熟していく必要があります。サービス基盤の整備だけを進めて行くのは、ある意味でこうした関係の成熟にとって逆効果になることも考えられるのです。
 また、障害者も遠からず介護保険の対象になると思います。しかしその段階で、障害者の人たちがどのくらい自己主張されるのか、と思っています。今年から導入されている支援費制度を障害者の人たちがどう受け取っているでしょうか。彼らにはもとから「措置制度から出て行きたい」という思いがあったけれど、介護保険制度をみていると、それは自分たちが望むものと違うようだと感じ、それに組み込まれないようにした。しかし、そうであっても、今後は介護保険への組み込まれていくと思いますので、障害者がどんなニーズを持ち込み、どんな生き方を望まれるかが大きなポイントとなると思います。

−福祉の分野でも人材が増えたと思いますが、プロとして望まれる人材についてお聞かせ下さい。

 専門職にはいろんなものが求められますが、自分が専門職としてやっていること、やろうとしていることを客観視できることが大事だと思います。専門職であるということは、法律や制度が提供している枠組みの中でのみ働くのではなく、法律や制度をも必要であれば変えていくことでしょう。そして、もし制度や法律が変わらない場合は、その制度を最大限活用してきちっとした選択をするということです。つまり、法律や制度などのシステムに埋もれてしまわないことが専門職の倫理性だと思います。 例えば、施設ケアだから仕方ない、介護保険だから仕方ない、ということではなく、一人ひとりの人生、あるいは家族や地域での暮らしのあり方といったところに軸足がないといけない。そういう意味では、単に制度の実践者ではなく、自分の中に専門職としての自律的なしっかりとした軸足が求められるのです。

―どのようにしたら、インセンティブを与えていくことができるのでしょうか。

 福祉は、それにかかわろうという人、あるいはそれを必要とする人を拒んではいけないと思います。誰もが関わっていくべきだと思います。ただ、そうはいっても誰にでも同じものを求めていくのは不可能なことです。 福祉がこのように広がっていった背景、専門職が養成されてきた背景には、福祉専門の資格ができたことが大きな要因だと思います。しかし、教科書を教えるという形での養成をしてきたことによって、ステレオタイプになってしまったともいえます。「実践から学ぶ」ということがあまりにも少なすぎるのです。「法律が変わる」、「制度が変わる」、「仕組みが変わる」というとそればかり勉強し、それに基づいてマニュアルを作成し、「明日からこれで行こう」ということになるのです。 例え、何か具合が悪いことがあったとしても、「制度がそうなったのだから仕方ない」と何のためらいもないとしたら、それは単に「制度を実践する」という枠から出て行くことができないのです。
 ですから、自分たちがやったことが、「法律や制度にのっとっている」という意味で「正しい」ものでも、結果として目の前で何が起こっているか、利用者が何を訴えているか、ということにもっと着目すべきなのです。

(次号へ続く・・・)

●プロフィール● (敬称略)
小國 英夫(1938年 京都市生まれ)
愛知県立大学、四天王寺国際仏教大学を経て、2002年京都光華女子大学人間関係学部社会福祉学科教授に就任

<著書・共著など>
『高齢者福祉概論』学分社2002、『社会福祉施設』友斐閣1999、『現代社会とジェンダー』ユニテ1995、『寝たきり老人はつくられる』中央法規出版1991など多数。

 

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