―先月号では、福祉分野においてインセンティブをもち続けることについてお伺いしました。今月は、その続きです。
社会福祉は、「実践の学」といわれながら、実践からは学ばずに「制度の学」のようになっています。介護保険制度や支援費制度ができましたが、それらをソーシャルワークという切り口、つまり、保険システムや財政システムといった角度からみるのではなく、ソーシャルワークとしてみたときにどうでしょう。制度に対して真正面から「福祉」という光を当てたときにどんな反射がおこるのかが大切なのですが、そういうことをあまりやってこなかったのです。
同様に「社会福祉士」という制度の社会福祉における意味づけを研究している人は決して多くありません。ですから、制度や政策を担う人が結果的に実践を「リード」する風潮がありました。しかし、これからは、お互いに相手を見てクロスオーバーしていく必要があります。
−最後に、介護保険の改定が進んでいますが、視点をどこに置かなくてはならないと思いますか?
先にも言いましたが、自治体は保険者になっているけれど、厚労省がどちらを向くか待っている状態です。そうした状況では本当に良いものはでてこないでしょう。
私は、「マイケアプラン運動」をやっていますが、その視点から見ると、介護保険が導入された時には、「従来の福祉はパターナリズムに基づいた行政処分であったが、自立した市民の生活をサポートするものに変わっていかなくてはならない」と言われました。しかし、今の介護保険も基本的にパターナリズムから脱していないと思います。
厚労省は、現在マイケアプランを否定してはいないので、「やりたい人はどんどんやってください」ということだと思いますが、やはり言葉だけが空回りしている気がします。しかし、これは制度の問題というより基本的にはわれわれの市民意識の問題です。ですから、まず私たちの意識から変えていく必要があるでしょう。
次に、予防給付で要支援の部分は、ドイツでもなかった部分であり、日本独自の部分です。しかし、過去の実績をみると、要支援から介護度1や2になる人が多く、改善がみられないことから、「要支援は必要ないのか」という議論になっています。ですから、サービス給付が予防給付に相応しいものであったのかについてもっと検証すべきです。しかも、予防給付は在宅介護支援センターの仕事だと押し付けている感がありますが、もともと介護保険の議論のなかで、予防給付にもっと力を入れるはずだったのです。そのあたりが、今度の改革であまり見えていないので、どうなるのか、と思っています。
現時点では、要支援への予防給付と要介護への介護給付は、限度額が違うだけで選択肢は一緒です。やはり、「予防給付」は、中身も目的も介護給付とは明確に区別すべきです。現在の現物給付は、あらかじめ決められたもののお仕着せに変わりないわけですから、予防給付に、(年金の付加給付ように、ある意味で自由に使える)現金給付を入れて、自分の趣味や生きがいなどにもどんどん使えるようにすればもっと効果が現れるのではないでしょうか。
最後に、私は、介護とは「関係」だと考えています。現在のように、個の状態だけをみて介護を組み立てるのは、正しくないと思います。現時点では、ある意味でダブルスタンダートになっており、基本的には個人だけを対象にしていますが、他方で入所判定などには家族の状態などを考慮している状況です。
また、給付の個別化では、解決しないこともたくさんあります。介護は、生活の一部ですから、専門職が提供するサービスだけが介護ではないのです。むしろ、介護のかなりの部分は、インフォーマルに提供されています。介護の良し悪しを決めているのは、関係の良し悪しであり、介護関係や家族関係が悪い中では、例え技術的に高い介護サービスが提供されたとしても、よい介護にはなりにくいのです。しかし、「関係」は給付できません。望ましい関係をつくっていく上で、どういう介護サービスが必要なのか、「セルフケア」、「家族によるケア」、「外部によるケア」のなかで何が一番適切であるのか、という意味でのアセスメントが必要です。
今までは、介護の本質の議論がないままに介護保険がつくられてきました。そのため、「介護は大変なものだ」、「介護地獄から解放されるための保険だ」とされてしまい、介護の本質としての関係性、つまり生活の一部であり、人生の一部であるということが基本的に欠落していると思います。
−ありがとうございました。
●プロフィール● (敬称略)
小國 英夫(1938年 京都市生まれ)
愛知県立大学、四天王寺国際仏教大学を経て、2002年京都光華女子大学人間関係学部社会福祉学科教授に就任
<著書・共著など>
『高齢者福祉概論』学分社2002、『社会福祉施設』友斐閣1999、『現代社会とジェンダー』ユニテ1995、『寝たきり老人はつくられる』中央法規出版1991など多数。
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