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アカデミックラウンジ
地域福祉を再考する(1)

大阪市社会福祉研修・情報センター 所長
大阪府立大学 名誉教授 右 田 紀久惠


−先生が「地域福祉」に関心を持たれたきっかけは何ですか。


  もともとは、医学部進学のために指定学部である家政学部を選びましたので、社会福祉の分野に進むことは考えていませんでした。しかし、当時は、大学卒業者といっても、女性の就職は極めて困難な時でした。ですから、幸いにも大阪市立大学の助手に採用され、調査活動やセツルメント活動に関わるようになったことが、地域との関わりを深める契機となりました。
 でも、最初は、行財政論を研究していましたので、地域福祉に関心を持ったのは、大学教員期間の後半からにすぎないのです。行財政は、国レベルでの政策研究が主流になる上に、当時、わが国は地方行政・地方自治の研究が遅れていました。そして、住民は行政の「対象」でしかなかったために、いつまでも住民は受身であり、そこには「主権在民」などはでてこなかったのです。
 しかし、本来、主体は住民であり、住民の集まりがいろんな仕事を共同で効率よく片付けるために機能を専門分化していったものが行政なのです。ですから、今日でも住民は、行政の機能を常に問わなくてはならないのです。
 けれども、わが国では、伝統的に政策は国がつくるものであって、垂直型、画一型であるのが当然とされてきました。そのため、地方や地域の特性、主体性や自治性よりも、「地方自治体は国家のもの」あるいは「下位組織」として認識され、地域政策は真の意味をもたなかったのです。
 また、地域自治体も住民よりも国の方を向いて仕事をする状況でしたので、社会福祉の制度と運営の効果にも疑問を持っていました。このような疑問と限界にアプローチし、システムを変換することが必要だと考え、「地域福祉」の理論化を試みたのです。
 また、地域福祉は、可能性、創造性の哲学を内在させている研究分野であり、国レベルでの施策や社会福祉運営研究では見えてこないし、理論構築に限界があります。それに反して、手ごたえのある分野だと思ったことも、私が地域福祉の研究にかかわり始めた理由のひとつです。

−最近よく使われるようになった「自治体型社会福祉」や「自治体型地域福祉」という言葉は、先生が概念化されたとうかがっています。

 私が提起したのは、「自治型地域福祉」で、「自治体地域福祉」ではありません。「自治型地域福祉」は、「地域福祉」そのものを語ろうとしているのであって、社会福祉の一分野や方法と考えるのではないのです。
 また、「福祉行政を地域化する」のではなく、公私協働の実践とその具現化を推し進め、新たな社会の質とシステムを構築するという考え方です。地方新時代といわれ、地方自治体は岐路に立たされ、試練の時を迎えているなかで、私には、10年前すでに公私協働の名のもとに国の事務を地方に負わせる動きに対して危惧があったのです。ですから、基礎自治体(市町村)と住民とが危機を共有し、真の意味でのパートナーシップを構築する時期と考え、「自治」の概念と地域福祉の方法論を接合させ、展開するという一つの理論課題として「自治型地域福祉」を提起したのです。

−では、地域福祉は、地方自治と大きな関連があるのですね。

 地域福祉の課題は、地方自治の課題と表裏一体の関係にあると思います。その理由のひとつは、今後の地域福祉の水準は地方自治のあり方によるからです。どうして日本の地方自治が遅れているかというと、一つは伝統的な行政の体質があげられます。また、もう一つは、住民の自治意識が遅れているからです。地域福祉とは、地域社会における住民の生活の場に着目し、住民の福祉への目を開き、住民が計画や運営へ参加することによって主体力・自治力を形成し、「自治」を創りあげる一つの分野として位置づけています。ですから、住民や地域の「主体力」がとても重要になります。

(→次号へ続く)

●プロフィール● (敬称略)
右田 紀久恵(うだ きくえ)
大阪市立大学卒業後、同大学助手、大阪府立大学教授・評議員・社会福祉学部長、東京国際大学教授、広島国際大学副学長を歴任。この間、ロンドン大学客員研究員、シェフィールド大学招聘客員教授。 現在は、大阪市社会福祉研修・情報センター所長、大阪府立大学 名誉教授。

<著書・共著など>
『講座:戦後社会福祉の総括と21世紀への展望U』(編著 ドメス出版2002)、『福祉の地域化-21世紀への架け橋/第2巻』(共著 中央法規出版2000)、『地域福祉総合化への途』(共著 ミネルヴァ書房 2000)など多数。

 

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