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アカデミックラウンジ
ホームヘルパーの仕事と健康(2)

 (財)淀川勤労者厚生協会 社会医学研究所
 主任研究員 重田 博正


―現時点では、疲労が蓄積しないようワークシェアリングを活用するというより、登録でしか働けない状況が多いように思います。

 言葉を悪く言えば、毒が薄められているために問題化に至っていないからと考えられます。実際、腰痛のために仕事を続けたくても続けられないヘルパーは少なくありません。しかし、登録の場合などは、ヘルパー同士の交流の場がないことも要因となって、問題になりにくいのです。 また、ヘルパーが病気にならならなければ、それでよいという問題ではありません。ヘルパーは生き生きと、心身ともにはつらつと働ける状況が大切です。特に、訪問介護は利用者とのコミュニケーションが重要ですから、ヘルパーが生き生きしていないと利用者にも影響を与えてしまいます。  あと、長い目でみれば、よりよい介護のためには、やはり学習や経験の蓄積が重要になります。経験が蓄積されてこそ、よりよい介護につながると思います。

―ヘルパーが働き続ける条件は、何だと思われますか。
 私の取り組んでいる範囲を超えた難しい問題ですが、福祉分野の特徴として、問題にはいくつかのレベルがあります。労働者集団が、人間関係も含めてどういう条件で集団として成立っているのか、ということから始まり、個人で解決できるレベル、事業者のレベルで解決できる問題、そして政策のレベルです。 よく、「介護保険の報酬単価がどうにかならないと・・」などの問題があげられますが、そればかりでは、やはり抜けている部分があると思います。政策の不十分な面もしっかり見なくてはならないけれど、何でも政策が悪いということにして、事業者の責任をあいまいにしてはならないと思います。事業者には、責任があるのだということを議論する必要があるのです。

―具体的な事業者の責任とは何でしょうか。
 健康管理などですか。 健康管理については、事業者には「安全配慮義務」があります。日本では、健康問題の対策といえば健康診断さえやっていえれば、という感があります。でも、腰痛検診は、腰痛という「結果」に対する対応にすぎないのです。大切なのは、腰痛が生じた要因は何か、またその原因をいかに少なくするか、ということなのです。 ですから、身体介護サービスの利用者宅のベッドが低く、ヘルパーが障害を残すほど重度の腰痛になった場合、それは利用者の責任ではありません。そういう労働をさせた事業者の責任になると思うのです。 労働安全衛生法の規定からいえば、腰痛のリスクがある仕事に就くのであれば、教育をキチンと行わなければならない事業者の責任があり、ここが問われるのです。でも、その責任を実行しようとしても、一事業所でできるのかというと、そうでもないのが現状です。

―最近は、リスクマネジメントについても言われています。
 日本では、リスクマネジメントといえば介護事故を念頭においた議論になっています。でも、この問題でも「2つの権利を統一的にとらえる」観点が重要です。つまり介護事故のリスクとヘルパーの健康と安全を脅かすリスク、この2つのリスクが実は深く関わっているのです。この2つのリスクを統一的にマネジメントしてこそ本当のリスクマネジメントになるのではないでしょうか。しかし現実には、介護事故のリスクを小さくするために、ヘルパーの負担が増え、事故が起った時にはヘルパーの不注意が原因とされる。それでは、本当には解決しません。ただ、今のところ、この問題については、理屈として考えているだけで、もっと実例の分析を積み重ねなければと思っています。
 また、利用者が抱えている介護の課題は、利用者の社会的、歴史的なバックグラウンドのなかで問題がおきている点を強調したいと思います。例えば、狭い部屋でベッドを壁につけて設置しているために片側からしか介護できず、ヘルパーの腰の負担が大きいというのは、住宅の問題です。国民の生活や労働条件を支える政策の不十分さが介護の課題を複雑にしている。これは介護だけでなく、福祉の分野で共通することですし、医療問題や教育問題にも通じることだと思うのです。

−欧米では、私たち日本人より、老後の人生を満喫している感じがしますが。
 やはり、生活のベースになるコミュニティや労働の場のベースづくりがしっかりとされているのでしょう。介護の課題が社会的な背景をもっているということは、別の言い方をすれば、いくら狭義の「介護」を一生懸命やっても、それだけでは解決しない。だから、あたかも介護の課題であるかのように現われている課題の社会性、それを目の前にいるお年寄りの具体的な事例を通じて発言していく、これが専門家として必要なのではないでしょうか。身を粉にして働くだけではなく、少しゆとりが必要ですが、本当によい仕事ができているかどうか自分に問いかけることも必要でしょう。これは、全てのヒューマンサービスに共通して言えることです。

―ありがとうございました。

●プロフィール● (敬称略)
重田 博正(1949年 大阪生)

淀川勤労者厚生協会社会医学研究所 主任研究員 滋賀医科大学予防医学講座非常勤講師 立命館大学経済学部非常勤講師

<著書・共著など>
 『ストレスもつかれもとんでいけ−保育現場の健康法』、フォーラム・A 1999、『なくそう教職員の健康破壊』文理閣1999 他
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