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ヘルパーの働きがいと専門性(1回目)

 佛教大学社会福祉学部   教授 植田 章


−先生は、介護保険サービス利用調査をされました。


  2003年の暮れから2004年の初めにかけて、大阪府下の「老人介護者家族の会」という当事者組織の方たちを対象に介護保険サービスの利用について調査する機会を得ました。これは、これからの実践方法や課題について明らかにしていくためにも、まずは利用者や家族の実態や願いを把握することから出発することが大事だと思ったからです。  
  この調査結果から、「介護の社会化」とは程遠い介護の実態が改めて浮き彫りになりました。私は、家族状況のいかんに関わらず、必要なサービスは個人に提供される仕組みへ移行すべきだと思います。「扶養の社会化」、「介護の社会化」こそ、個人の自立と家族の結びつきを強める方向で機能していくのだろうと思っています。

−サービスの質については、どのような回答の傾向が ありますか。

 回答を送ってくださった約700人のうち、約2割は何かしら不都合があると答えています。その内容は、まず、「ケアマネと連絡が取れない」ということです。続いて、「なかなか生活実態を把握してもらっていない」、「自分の思い、意図がケアプランに反映されていないのではないか」というようなことでした。
 これらは、ケアマネジャーが多忙であるために利用者とのコミュニケーションが十分でないことが関係していると思います。介護支援専門員は、運営基準として一人当たり50人が標準とされていますが、実態は、100人以上を担当しないと事業所の採算は取れないといわれています。さらに、ケアマネジャーは、市町村から委託をうけ、要介護認定調査や給付管理業務なども抱えています。このような長時間過密労働という状況のなかでは、なかなか安定的にケアマネジャーに働いてもらえない。そのため、介護支援専門員の確保が難しくなってきているということが、全国的な調査でも言われています。利用者、家族がケアマネジャーに対して抱く思いと、一方でケアマネジャーのそういう労働環境の問題をすり合わせていきながら、改善の問題を示していかなくてはなりません。
 また、ヘルパーのサービスの質については、回答者341人のうち約2割が、少し不都合を感じています。特にひとり暮らしにその傾向が見られるようです。これは、援助の必要性がとりわけ高い方たちであるために、ヘルパーさんに対しては多岐にわたる希望があるようです。

 不都合に感じる内容は、「利用時間回数が希望と異なる」というヘルパーさんだけの問題ではないこともありますが、「サービス提供がおしつけがましい」、「忙しそうで相談できる雰囲気でない」といった方もみられます。また、言葉遣いの問題や意向が反映されていないこと、担当者の引継ぎ、さらにはヘルパーの質そのものについても挙げられていました。
 この、利用者からみると「不都合な内容」としてあげられているヘルパーの「専門性」、「サービスの質」をどう高めていくか、という問題と介護保険制度そのものの仕組みがもつ問題、この2つをあわせて私たちは検討していかなくてはならないと思います。

− 利用者の声は、大切ですね。

 やはり、利用者や家族の生活実態や願い、希望、そこから出発することが大事だと思います。そして、介護保険の見直し。介護保険制度そのものを改善、拡充していくということはもちろん、それだけでなく、年金の問題、つまり高齢期の所得保障の問題や住宅保障の問題などもあわせて考えなくてはならないと思います。私たちは、ついつい介護保険制度だけをテーマにして実践や運動の課題を据えますが、やはり今回の調査などで利用者の声を聞くと、改めて介護保険と併せて高齢期の所得保障や住宅保障の問題について積極的な提言が必要だと思います。
  このところ、年金問題が取り上げられていますが、高齢者の方たちの年金収入は低い水準でとどまっているのです。その一方で、利用料、保険料負担は大きくなってきています。介護保険の見直しとあわせて、高齢期の所得保障や住宅保障といった視点から高齢期の政策のあり方を見つめなおし、きちんとした政策提言をしていくことが大切ではないかと思っています。               

 (→次回へ続く)

●プロフィール● (敬称略)
植田 章 (うえだ あきら)

大阪市生まれ。立命館大学大学院社会学研究科応用社会学専攻修士課程修了。医療ソーシャルワーカー、総合社会福祉研究所等を経て現職。

<著書・論文など>
『社会福祉方法原論』『障害者の健康と医療保障』(法律文化社)、『介護保険とホームヘルパー─ホームヘルプ労働の原点を見つめ直す─』(萌文社)、『障害者福祉原論』(高菅出版)、『はじめての子育て支援〜保育者のための援助論〜』(かもがわ出版) など
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