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スウェーデンの保育事情(第1回)

 大阪府立大学社会福祉学部
教授 泉 千勢


−先生は、ヨーロッパ、特にスウェーデンの保育にお詳しいとお伺いしています。

  1988年にスウェーデンのイェテボリ大学に留学したのがきっかけです。私の専門は保育ですが、スウェーデンでは、保育だけでなく社会全体の仕組みについてずいぶんいろいろ学ぶことができました。帰国後、お世話になった学部長の呼びかけによって、「日米北欧の福祉制度と価値」の共同研究に取り組む機会があり、国際的な交流も生まれました。
 また、留学中にソーシャルワーカーの国際会議に出席する機会がありました。そこでは、世界の人びとが活発に議論を交わしているのを目の当たりにし、衝撃をうけました。そのとき、保育分野での国際的な交流が大切だと気づき、帰国後、1989年にロンドンで開催された「OMEP」(世界幼児教育・保育機構)の国際会議に参加しました。これがきっかけとなって、保育関係の国際交流にかかわってきました。
 その後、日本の状況も変わっていく中で、子育て支援などにも関わり、スウェーデンの子育てや保育事情を紹介してきました。

−先生のお考えになっている「子育て支援」について、お聞かせ下さい。
 私が取り組んでいるのは、在宅の子育て、主に「地域子育て支援センター」です。スウェーデンには、「オープン保育所」と呼ばれる公に開かれた保育室(「公開保育室」)があります。日本が今取り組んでいる「地域子育て支援センター」や「親子のひろば」のようなものです。
 スウェーデンは、日本より早く少子高齢化が問題となりました。そして、1970年代からその対策に取り組んできました。ですから、保育に関しても日本と比べてずいぶん進んでいます。

−「公開保育室」とは、どのようなものですか。
 スウェーデンでは、1970年代から80年代にかけて保育所の整備を進めないといけないというときに、同時に在宅の支援も進めていきました。例えば、スーパーの2階など地域の身近な場所を利用して、公開保育室をたくさん設置したのです。当時は、在宅の子育てを支援するということは、女性を家庭にとどめる策ではないか、という議論もありました。でも、実際は、専業主婦がいなくなり、現在では、育児休暇中の親とその子どもたちの交流の場になっており、孤独な子育てをなくすためにも、比較的うまく機能しています。
 公開保育室の責任者には、ベテランの保育士があたります。また、そのほかにもソーシャルワーカーや看護師さんも共同でいろんな相談に応じています。
 さらに、今は、ファミリーセンターとして親に対して育児指導(親教育)をしたり、子どものクラブを支援したり、多様な形で活動を行っています。

−日本の保育所は、保育に欠ける子どものためでしたが、スウェーデンではどうですか。
 幼稚園と保育所が制度的に統合されており、親が在宅であるために短時間で良い子どもは短時間、保育に欠ける子どもは長い時間すごします。一方、公開保育室は、オープンな保育所ですから、入所登録する必要はありません。在宅の親とその子どもたちが好きなときにやって来て、サロン的にすごすことができることが特徴です。
 日本の子育て支援センターは、まだまだ数が少ないため、遠くからわざわざ来る親子も少なくありません。でも、スウェーデンでは、大阪府と同規模の人口890万人に対して、一番多いときには1500か所、今でも1000か所の公開保育室(ファミリー・センター)が設置されているのです。ですから、親は、わざわざ遠いところまでいかなくても、乳母車を押して近隣の公開保育室へいくことができます。
 また、何度も公開保育室で過ごすうちに、親同士がお互いに顔見知りになりますし、主体的に運営の企画などにかかわるようになるところが多いのです。そこでは、専門スタッフは、親の主体性を尊重し、遊びの企画や育児の相談などに対応しながら、親子の活動を見守っているのです。

 (→次回へ続く)

●プロフィール● (敬称略)
泉 千勢 (いずみ ちせ)

大阪府立大学社会福祉学部教授。保育理論・発達心理学専門。

<著 書>
スウェーデンの保育方法 テーマ活動−その理論と実践−」(大空社)、「スウェーデンにみる個性重視社会」(桜井書店)など
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