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ヘルパーの働きがいと専門性(2回目)

 佛教大学社会福祉学部   教授 植田 章


−介護保険が始まり4年が経ちましたが、振り返ってどのようにお感じになりますか。

 私は、ここにきて改めて利用契約制度のもとにおける社会福祉の仕事を見つめなおし、利用者・家族と何を共有していくのか、を考える時期にさしかかっていると考えています。
 わが国では、介護保険制度により契約の問題などがでてくるまで、福祉サービスの質をめぐって議論を交わす、あるいは評価することはあまりなかったのです。
 しかし、利用契約制度のもとでは、福祉の現場で提供されるサービスの質について利用者や家族が事前に認識しておくことが大切です。つまり、事業所は、利用者が利用できるサービスを第三者が了解可能な形で、目に見えるものとして用意しなくてはなりません。また、利用者から満足を得る専門のサービスが用意されてなければならいのです。そういう利用契約制度、利用者の権利擁護の視点から、情報の問題、苦情解決の問題、制度にアクセスできない人たちの問題も補完しながら具体的に福祉サービスについて情報提供を事前に行うことが必要ですし、第三者の市民からみても了解できる形で目に見えるものとして示しておく、利用契約制度とはそういうものだと思います。
 ただ、この国では、介護保険や支援費制度などを含む契約制度では、福祉サービス供給体制が未整理なところから出発していますから、契約の対等性が実質的に十分保障されていません。そのため、ともすれば、契約というものが形骸化してしまうことにもなるわけです。

−これからケアマネジャーやホームヘルパーが目指すべき方向についてお聞かせ下さい。
 私は、利用者さんのお宅でサービスを提供するにあたって、ケアマネジャーやヘルパーは、サービス提供者として何を共通していくのか、ということについて改めて考えています。つまり、福祉専門職であるヘルパーたちは、介護保険という利用契約制度のもとで、契約の対等性も保障されていない中で何を獲得していくのかということが問われているのです。ですから、改めて高齢者や障害者の福祉実践をより確かなものにする必要があるのではないでしょうか。さらに、チーム労働というか職員集団のなかで経験の蓄積からお互いに学びあって、それを共有してチームで援助方針を導きだしてきました。そんななか、福祉の現場で働く先輩たちは、実践を通して非常に貴重な価値、つまり「人権を尊重しなくてはならない」ということを見出してきたのです。つまり、「どんなに痴呆が進んでも、感性や感覚は豊かである」という事実を実践のなかで発見してきたのです。そういう「揺るがすことができない原理」というものを、引き続き、日々の実践や運動のなかで位置づけていくことが大切だと思います。
 確かに、ヘルパーさんの仕事でいえば、介護報酬で規定され、事業の採算性、経営や運営などの点からともすれば、細切れの仕事になったり、直行直帰になったり、カンファレンスの場が持てなかったりします。しかし、その中でも勉強会をもって努力したり、カンファレンスの機会を確保したりすることによって、高齢者や障害者の福祉実践のなかで培ってきた、揺るがすことができない原理を位置づけていることが大切だと思っています。
 もちろん、ヘルパーさんにとっては、「サービスの質」や「生活の質」といわれても、専任職員が3名で、ほとんどがパート労働といった職員配置では、それには程遠い状況だろうということもよく理解できます。個々のヘルパーの職員集団の努力だけでは如何ともしがたいことも多いことは事実だと思います。しかし、だからといって、福祉専門職が可能なところから、できるところからやっていくということにとどまっていると、結果として市民、あるいは国民のヘルパーの仕事に対する期待に応えることは、出来ないと思います。

 (→次回へ続く)

●プロフィール● (敬称略)
植田 章 (うえだ あきら)

大阪市生まれ。立命館大学大学院社会学研究科応用社会学専攻修士課程修了。医療ソーシャルワーカー、総合社会福祉研究所等を経て現職。

<著書・論文など>
『社会福祉方法原論』『障害者の健康と医療保障』(法律文化社)、『介護保険とホームヘルパー─ホームヘルプ労働の原点を見つめ直す─』(萌文社)、『障害者福祉原論』(高菅出版)、『はじめての子育て支援〜保育者のための援助論〜』(かもがわ出版) など
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