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ヘルパーの働きがいと専門性(3回目)

 佛教大学社会福祉学部   教授 植田 章


−介護保険では、「利用者の権利」は確保されている のでしょうか。

 利用者の権利については、様々な福祉法が生きていて、措置も残っているのですから、一市民の固有の権利として、困ったときに市町村や国との関係において、もっと責任を問うていかなければならないのではないかと思います。要介護5で痴呆になれば、介護保険の支給限度額ギリギリまでサービスを利用してもムリなのに、介護保険のなかでは全て事業者との関係でおさめられてしまっている。
 私は、福祉における人権保障の水準を曖昧にさせたくはありません。ですが、気がつけば、一生懸命相談にのってくださるケアマネジャーと雨の日も寒い日も来てくれるヘルパーさんしか見えなくなっていて、福祉事務所は遠い、遠い彼方にいってしまっている。地域の人々が暮らし続けていく上で必要な「ライフライン」を守ってくれる地域の援助者は誰なのかが明確になっていないのです。ですから、ライフラインを守りきる地域の援助者は一体誰なのか、という点を明確にしなくてはならないと思っています。
 それから、利用契約制度のもとでは、改めて利用者の情報を共有することの意味を確認することも大切です。特に、ヘルパーなど利用者に直接サービスを提供している人たちが、利用者の情報を共有することの持つ意味や分断されている地域のネットワークを築きあげる意義について確認していただきたい。
 介護保険が始まるまでは、利用者に必要な援助を提供する際は、関係機関はお互いに情報を共有しながら問題解決を図ってきました。援助者は、利用者や家族を中心におき、機関を超え、信頼関係を築きながら分かり合える関係を作ってきたのです。そういう一つ一つの事例を積み上げながら、地域における問題解決に向けてのネットワーク、つまり「地域力」を築いてきたのです。
  しかし、今、利用契約制度のもとで、事業所はバラバラになっています。また、専門職もバラバラに機能しています。改めて、地域の支え合う関係を築いていくことが大切であり、そのためには地域で暮らす利用者や家族の生活上のリスクも含めて情報を共有することが大切なのです。

−最後に、がんばっているケアマネさん、ヘルパーさんへメッセージをお願いします。
 初心と資質を大切にしてほしいと思います。この仕事を始めるとき、「少しでも力になりたい」あるいは、「共感しあいたい」、「喜んでもらいたい」・・・そんな思いをもって利用者さんと向き合っていたと思います。この初心の思いが大切ですし、資質なのです。
 もちろん、必ずしもこの思いは利用者や家族と共有できるとは限りません。援助者の思いが利用者や家族に通じないのはしんどいですから、逆に「マニュアルがあったら上手く行くのかな」と思うかもしれません。でも、福祉の仕事はマニュアルどおりにはうまくいかないのです。大切なことは、日々、利用者や家族と向き合うなかで、援助者としての初心の気持ちを大切にしながら一歩ずつステップアップしていくことなのです。
 ただ、「力になりたい」、「喜んでもらいたい」という気持ちは、ともすれば自分中心の評価になりがちです。ですから、「私たちの働きかけはどうだったのか」、「これでよかったのか」と利用者を中心に評価する癖をつける働きかけが必要です。もう少し詳しく言いますと、私たちは「誰のために働いているのか」ということです。例え低い給料であっても、「何で報酬を得ているのか」という現実を福祉の専門職として利用者や関係者にきちっと見せていくことも必要だと思います。
 初心の気持ちを大切にしながらも、全ての利用者さんたちがその気持ちに向かい合ってくれるわけでもないなかで、ともすれば利用契約制度がもっともっと対人援助を難しくしていくなかであっても、自分中心でなく利用者を中心に評価する癖、経験年数とともにステップアップしていく新しい自分を迎え入れていく力をつけていただきたいですね。

−ありがとうございました。

●プロフィール● (敬称略)
植田 章 (うえだ あきら)

大阪市生まれ。立命館大学大学院社会学研究科応用社会学専攻修士課程修了。医療ソーシャルワーカー、総合社会福祉研究所等を経て現職。

<著書・論文など>
『社会福祉方法原論』『障害者の健康と医療保障』(法律文化社)、『介護保険とホームヘルパー─ホームヘルプ労働の原点を見つめ直す─』(萌文社)、『障害者福祉原論』(高菅出版)、『はじめての子育て支援〜保育者のための援助論〜』(かもがわ出版) など
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