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介護保険の行方 (その1)
分かりにくい介護予防

 国際高齢者医療研究所所長 
岡本クリニック院長 岡 本 祐 三


−今度の介護保険の見直しについてどのようにお考えですか。

 2005年度の介護保険の大「見直し」を見据え、その大筋が見えてきた。その目玉のひとつに「介護予防」が大々的に打ち出され、その方法論として「高齢者リハビリテーション」談義が盛んになってきた。 その理由というか、契機としては、2003年度に「日医総研」によってまとめられた、要介護度の推移についての島根県のデータ分析がある。厚生労働省は、その結果をもとに「介護予防の効果があがっていない」と評価している。

−具体的にどのような分析結果から出された評価ですか。
 
島根県の2000年度から2年間の要介護認定のデータで、要介護2以上に比べて要支援及び要介護1の者は、要介護度が重度化した割合が多くなっている。この軽度の要介護者の要介護度が、一定期間後に重度化する割合が高い理由は、現行の要支援者への予防給付や軽度の要介護者への給付が必ずしも要介護度の改善につながっていないためであるという。
 「予防」という概念は、古くより医療の分野、特に公衆衛生などでは「1000円の治療よりも10円の予防が勝る」というような費用対効果論が盛んに提唱されてきたように、それは正しい行いに決まっているという、一種の「絶対善」としての響きを持っているから、予防論の適否を検証するのはその入り口からやりにくいところがある。しかし同時に「絶対善」などというものはこの世にはないわけで、一度は疑ってかかるのが分別というものだ。そもそも「介護予防」という用語の中身は何なのだろう。伝染病の予防、成人病の予防、癌の予防、虐待の予防、犯罪の予防、これらはよく分かる。「予防」の対象となっているものは「悪」であるから。では「介護」は「悪」なのか。そうではないだろう。

−確かに、「介護」は、病気や犯罪など他の予防の対象とは違う気がします。
 介護が必要になるのは、「障害」があるためだからだ。だから、介護サービスをうけなくてもよいように、「障害状態にならないようにしよう」あるいは、「障害が悪化しないようにしよう」という「障害予防」ならよく理解できる。それが介護保険制度の導入とともに、特に昨今介護保険の給付の「急増⇒公費投入・保険料増」への危惧とともに「介護予防」という、「サービスを受けること」一般についてネガティブな印象を与えかねないスローガンに転化しつつあることに、非常に違和感を覚える。
  「介護保険サービスの濫用」はよろしくない。特にそれが軽度用介護者に目立つ。そこで軽度要介護者には介護サービスではなく「リハビリテーション」が必要という論調まで登場してきた。しかも中央からの政策として。
 心身の障害のある者にとって「機能」にはどのような要素が関連するのかを考えると、非常に多様な変数が複雑に絡んでいる。そのなかで、はたして「リハビリ」という、解釈があまりにも曖昧模糊とした抽象的な概念の方法論による問題解決は可能なのだろうか。また、その個別事例への適用を、いったい誰が(ケアマネジャー?、ヘルパー?、PTやOT?)、どのようにできるのか。具体的な展開方法がさっぱりわからないというのが本音だ。
 介護保険制度創設の目標のひとつは、家族介護主義の呪縛に閉じ込められ、しばしば悲惨に結果を招いた、家族介護のニーズを社会的責任の世界へ解放すること、社会的介護サービスの利用を奨励するということであったはずだ。たとえ、介護給付費が年率10%をこえる伸びをみせはじめたとしても、介護保険制度によって、多数の市民が「老後への安心感」を実感しはじめたこの時期に、その利用を抑制するような政策的スローガンにはいただけないものがある。あるいは「濫用」の実態についても、よくわかっていないのではないか。                   

 (→次号へ続く)

●プロフィール● (敬称略)

岡本祐三(1943.11.25日生)
 阪南中央病院内科医長・健康管理部長、神戸市看護大学教授を経て、2001年に国際高齢者医療研究所 岡本クリニックを開設し、現在に至る。
痴呆ケア研究検討委員会委員(1998-2000)
NPO介護保険市民オンブズマン機構大阪代表理事(1999-)
兵庫県介護保険サービス苦情処理委員会会長(2000-)

<著 書>
「デンマークに学ぶ豊かな老後」 朝日新聞社・朝日文庫
「医療と福祉の新時代」日本評論社 他 多数

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