−先生のご研究についておきかせください。
私のもともとの専門は、「家族援助」と「ソーシャルワーク」です。家族援助は、家族をテーマにしているので児童から高齢者まで幅が広いのですが、私は高齢者のほうは離れて「児童家庭福祉」のなかでも「虐待」が現在取り組んでいる一番ミクロな分野となります。ソーシャルワークについては、ソーシャルワーカの専門性の向上、ストレスやバーンアウトの問題について取り組んでいます。
現在、企画や運営委員として関わっている「チャイルドネットOSAKA」にも、もともとは「虐待」のことで関わらせていただき、そこから保育関係の仕事をやらせていただくようになりました。特に、今は、保育制度が変わりましたから、その部分で保育所での「保護者指導」、「子育て支援の課題と保育士の人材育成・養成」のテーマに取り組んでいます。
−制度がつぎつぎと変わり、保育分野も大変な時期を迎えているのですね。
制度の変わり目には、その領域の専門職は疲弊しがちです。これまでのモラルが崩れたり、専門性が土台から問い直されたりしますから、自分自身を失いがちになりますし、忙しさのあまり「何でも屋さん」のような意識になったりします。今、保育がちょうどそういう時期です。
実際、私もこれほど劇的に制度がかわるとはおもっていませんでした。国家資格化するのはよかったと思いますが、保護者指導や子育て支援、一般財政化、総合施設の問題などといった激動の時期を迎え、保育は二極分化し始めています。これは、利用者にとっては待機児童の解消など利用しやすくなる可能性はあります。ただ、やればやるほど保育ニーズは高くなりますから、どこまでやったらいいのか、という社会的な問題は残ると思います。
−ますます「子育ての外注化」が進むのですか。
今のように社会の基盤が変わっている時には、外注化の流れは受け入れざるを得ないでしょう。一時保育など柔軟な対応をしていかないと、保育所はこれまでどおりやっているわけにはいかないと思います。ただ、しっかりと「ディマンド」と「ニーズ」の見極めをする必要があります。優先順位で入所を認めるとか、特定の層だけを優遇するというのでは、これからの保育は成立たなくなると思います。待機児童を解消するために、利用者のハードルを高くして一時保育の壁を低くする、といった工夫も大事です。
−先進的な保育園の話を聞くと、個人の個性を伸ばすには人手が必要だと感じます。
保育所は、これから3つの層に分かれると思います。1つは総合施設化で、第三者評価を入れながら積極的に子育てニーズを拾い上げていく層。真ん中は、単独の保育所としてこれまでの保育サービスと子育て支援、地域のニーズにあった形で展開する。残る1つは、いわゆる虐待や障害など難しい家庭を本来の福祉目的でケアしていく層。この3層に分かれると思います。
−ボランティアが保育や子育支援などに関わることができないのでしょうか。
そもそも福祉施設というのは、もっているノウハウを地域に還元し、地域の力を借りながら地域型の施設をやっていかないといけないのです。ですが、保育所というのは、地域にありながらどちらかというと塀が高くて、実習生は受け入れますがボランティアはほとんど受け入れていない。ですから、子育てが終わった方、子どもがいないけれど何か支援をしたいという方を発掘していく、ボランティアコーディネータのような方がいないのです。どちらかというと、保育園にきている子どもだけに対応しているのが状況です。
−ボランティアを受け入れると、もっと先生方の負担も軽減されると思うのですが。
これからは、人件費が抑制されていきますから、高い専門性を持つ人を雇用しつつも、いかに人材を増やしていくかが課題になっていくでしょう。ですから、役に立ちたいと思っているボランティアのような人たちを巻き込んでいく必要がありますし、またそれによって新たな発想も得ることが出来ると思います。
(→次号へ続く)
●プロフィール● (敬称略)
倉石 哲也 (くらいし てつや)
武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科助教授。
関西学院大学大学院社会学研究科修士課程修了。
淀屋橋心理用法センター(家族ソーシャルワーカ)、大阪府立大学社福祉学部(講師、助教授)を経て現職。
<著 書>
「家族福祉論」(2002年、勁草書房)、「キーワード・シリーズソーシャルワーク」(2002年、中央法規)、「社会福祉施設における相談・援助活動」(2002年、中央福祉学院)など
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