○介護保険についてどのように評価されていますか。
介護保険が導入されてからの5年間、全国均一の客観的な要介護認定によって公平化が進んだことはよかったと思います。
日本が介護保険を参考にしたドイツと比較すると、日本の方が要介護のランクも細かく設定されていますし、要介護者のニーズの客観化や負担の公平化といった点でも評価できると思います。また、介護保険の導入によってケアマネジャー(介護支援専門員)というケアマネジメントの専門職が生まれましたし、ホームヘルパー(訪問介護員)の社会的な認知も進みました。
さらに、市町村においても、地方分権化との関係もあって、今まで国や都道府県任せだったサービスの責任の主体が、きちんと市町村に受け継がれ、市町村に「住民のニーズに応えなくてはならない」という姿勢を問うことができた点でも、評価できると思います。
○この5年間の経緯をみると、介護保険に対しては「良い」という評価ですか。
まず、サービスを利用する人の「権利」の意識が浸透し、サービスへのニーズの客観化、負担の平準化が行われるようになりました。それと、これは都市部に限るのでしょうが、何よりも介護ビジネスに民間事業者が参入するようになりました。
もちろん、まだまだ今後の様子を見る必要がありますが、民間事業者の参入によって市場原理が働き、サービスの質の向上や量の拡大が進み、これまでの措置時代とは違う方向に進んでいくことになるでしょう。
しかし、一方で問題もあります。介護のニーズ、あるいはそれに対するサービスは生命に関わるナショナルミニマムですから、個人的には公的な介護保障として税ですべきだと思っています。そうなると、「財源」の話になりますが、だからといって、単に消費税率を上げたり、福祉のための目的税を導入するのではなく、今までの税法の体系のなかで、国民のニーズに見合った税制改革を進めるのが先決だと思っています。
後はもっと要介護者が増えていくのですから、本当の意味での「聖域なき財政構造改革」を行ったうえで、その結果を国民に情報開示し、高齢化のピークとなる2050年に向けた社会保障の方法について議論を始めることが大切です。この点については、ドイツでは
18年もかけて議論されてきたのに比べて、日本での論議は大変短く、拙速すぎたと思います。
現在の日本は、福祉だけでなく、政治も経済もすべてアメリカナイズされています。でも、本当にアメリカのシステムがよいのか、それとも北欧のシステムがよいのか、それとも日本の実情に見合ったオリジナルなものがよいのか・・・そういうことについて議論することが大切です。
○介護だけでなく、社会保障全体として考える必要があるのですね。
そのとおりで、今、国民が一番不安に思っていること、そして、最も期待していることは社会保障ではないでしょうか。でも、実際は、保険も、医療も、介護も、年金も社会保障全般にかかわることであるのに、バラバラに行われているのです。ですから、それらを総合的に考え、それに政治・経済の政策ともオーソライズしたうえで論議する必要があります。
しかも、永田町や霞ヶ関の論理だけで進めても、全国の市町村や都道府県の地域経済、あるいは福祉政策を議論できないのではないかと思っています。地方へ公共事業や地域振興の件などで視察に行くと、「人」や「もの」の流通や往来のためには、道路の整備など公共事業も必要だと思います。
でも、中央発信の公共事業やインフラ整備などは、国がイニシャルコストを負担しても、ランニングコストはやはり自治体が負担しないといけないのです。ですから、10年、20年先のことを考えると、結局は「ツケ」は地元の負担になるということを考える必要があります。また、新幹線が開通したり、高速道路のインターチャンジや地方空港が整備されたりして地方の交通が便利になっても地元での消費が拡大されず、都会への単なる「通過点」となってしまい、地域経済にとってはマイナスの結果になったという傾向もみられます。ですから、経済政策と福祉政策を一本にして、総合的な地域づくり、まちづくりを考えていく必要があるのです。
(→次号へ続く)
●プロフィール● (敬称略)
川村 匡由(かわむら まさよし)
1946年静岡県生まれ。立命館大学文学部卒業後、新聞記者として経験を重ねた後、社会保障・社会福祉の研究者に転じる。日本福祉大学講師、つくば国際大学教授を経て98年旧武蔵野女子大学現代社会学部教授に就任。99年早稲田大学大学院人間科学研究科にて博士号を取得。2001年より現職。
<著書>
「これからの有料老人ホーム」「地域福祉計画論序説」など多数。
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