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変わる保育事情(第3回)

 武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科
助教授 倉石 哲也


−今、子どもに対する予算がカットされているのは、子どもを生み・育てやすい社会づくりに逆らっているようですが。
 これまでの保育所という枠組みで「生活困難な家庭のケアをどうしていくのか」ということを考えると、総合施設化とは対極的に考え方を転換させないといけない時代になっています。
 私は、2年に1回ほどサンフランシスコで民間の篤志家によって運営されている保育所を視察します。そこは、児童のうち10%から15%が虐待児童です。そこは、貧困地域の中にありながら、とてもきれいな保育所で、ボランティアの方をはじめ専門性が高い職員がたくさんいました。ですから、子どもは屋外でのアクティビティでは大きな声を上げていますが、室内では日本の保育所とは違ってとても静かです。食事中も60人が 10人ずつに分かれて円卓で食べているのですが、まったく騒がしくありませんでした。それは、たとえ家庭的には裕福ではない地域であっても、それだけ多くの大人によってしっかりとパーソナルケアがなされているからです。ですから、日本でも子育てがひと段落された方をもう一度雇用したり、経験を積んで保育の勉強をされている方などを招き入れるなど、人材の登用も考えていただきたい。
 人員配置の面では、なんとかやりくりして25人の子どもを2人で担当したりしてがんばっている保育所でも、これからは「専門性」という部分では、求められるものが高くなっていくでしょう。
 それと、ゆくゆくサービスとして必要となるのが、家庭型保育です。0歳児で親が身体的、精神的に育児面で困難を持っているケースを対象に、保育士と保健師による訪問に予算をつけていくことになっています。これは、幼児検診などの未受診者や虐待の可能性がありそうな子どもなど、かなりの困難層の虐待予防になります。保健所からの保健師となるとハードルが高くなりますから、保育士がきて一緒にあそばせることで趣がかわる、ということで17年度から取り組み始める自治体がかなり多くなるでしょう。

−虐待は、大きな問題ですよね。
 親の出産平均年齢が高くなる一方で、若くして親になる場合も多く、その不安感はより大きいのです。若年出産した保護者のほうが子育て意識が強いというデータもあります。それは、「自分が若いからと馬鹿にされないためにもしっかりと子育てしないと」という思いはあるもののノウハウがないために不安感が大きいからです。意識は高いけれど、レパートリーが少ない親は、虐待に走りやすいのです。虐待する親は、最終的には子どもに否定感を持ちますが、一般に子育て意識が高いのです。
 あと、虐待する親の特徴は、抱えている生活ストレスを子どもにわかってほしい、子どもに癒されたいと思ってしまう点です。子どもから愛情をもらいたいと思うのですが、子どもにはそれができない。だから、かわいいと思えなくなるのです。つまり、「私はこんなに一生懸命やっているのに・・・」という高い意識の反面、子どもは、自分を嫌って好きになってくれない。そして、レパートリーの少なさ・・・この三つ巴から虐待にいたるといわれます。ですから、その点を保育所の先生が理解する必要があります。「お母さんなんだから・・」、「子どものことを考えて・・・」などといわれると、親は百も承知のことなので、よけいに大変です。
 ですから、児童福祉法の改正で保育の業務に保護者の指導が入りましたから、これからしっかりと専門性を積み上げていかなくてはならない部分です。
保育士が最初に指導しようとする保護者は、ある意味で「気になる保護者」です。でも、その保護者はいろんな研究から子育て意識が高いのです。自分がまずいことをやりかけているとわかっています。ですから、そういう人に指導しようとしても逃げる、閉じこもる・・・そして、逆にひどくなる。
 保育士は、どうしても子どもを見ますから、親に指導をしたくなるのはバランスとしては分かります。でも、「保護者の指導」という文言が入ったからには、子どもの発達を理解した保育計画があるように、保護者の置かれた生活状況を理解したうえでの保護者指導の計画が求められます。それは、保育所がケア施設として、これから創っていかないといけない部分なのです。

−ありがとうございます。

●プロフィール● (敬称略)
倉石 哲也 (くらいし てつや)

武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科助教授。
関西学院大学大学院社会学研究科修士課程修了。
淀屋橋心理用法センター(家族ソーシャルワーカ)、大阪府立大学社福祉学部(講師、助教授)を経て現職。

<著 書>
「家族福祉論」(2002年、勁草書房)、「キーワード・シリーズソーシャルワーク」(2002年、中央法規)、「社会福祉施設における相談・援助活動」(2002年、中央福祉学院)など
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