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介護保険改革を点検する(第2回)

 武蔵野大学大学院 人間社会・文化研究科
教授 川 村 匡 由


○介護保険の地域保険としての限界についてはどのようにお考えですか。
 もちろん、保険料には地域によって月額3000〜5000円程度の幅が今なおありますから、これは地方分権化を考える意味で注目すべきところです。でも介護保険は、実はこのような地方分権化に逆行する中央集権の側面もあります。政府が法律をつくり、国会で議論し、様々な省令や政令などができてはじめて保険者の市町村が運営に着手できる。つまり、国会で決まらなければ市町村は動けないということは、地方分権化に逆行する中央集権のシステムで、地方分権が進められているわけではないのです。その証拠に、かつて自治体が一号被保険者のうち、低所得者などに対して保険料を減免するというと、政府は「けしからん」と言ったのですね。

 私は、介護ニーズに対するサービスは、ナショナルミニマムの公的介護保障として税金ですべきだと思っています。例えば、基準額で全国平均よりも高くせざるを得ない自治体に対しては、国が一般財源である税金を補助金などとして注入することは、本来の意味での地方自治の本旨だと思います。それを放っておいて、「大変だね」といっているのは中央集権の考えです。財政力指数の低い自治体、介護保険料が高い自治体は、合併して隣の町と一緒になったら合併特例債があるからいいのではないかというのは、本来の地方分権ではないと思います。補助金行政というのは、本来は弱いところに中央が補填するということであって、それが本来の地方自治であり、地方分権だと思います。

○一方、介護保険によってサービスが使いやすくなった分、利用者のモラルハザードも聞かれます。
 確かに、国民のモラルの低下と同時に、それ以上に年金や税金、政治に対する意識は未熟だと思います。「保険料を負担しているのだから給付を受けないと損」といった損得勘定が根底にあると思うのですが、社会保険は民間の保険と違い、ナショナルミニマムをまっとうするための社会契約です。ですから、むしろ掛け捨てになった方が好ましいですし、自分の保険料が困っている人の役に立っているというモラルが国民に浸透していないのです。

 そこには、長年にわたる措置制度の弊害も一部にはあるのではないかと思います。措置制度では、基本的にはすべて税金で賄われ、原則無料でしたから、国民は社会保険に対する理解が不十分だったのだと思います。このモラルハザードには、やはり教育がキチンとなされていなかったことが考えられます。教育は、次代の日本を担う人材の養成だけでなく、モラルを徹底するためにも大切です。ですから、まず義務教育の間に子どもたちに社会保障について教えるべきではないかと思います。

 また、企業側は、営利を追求することも必要ですし、経営が安定すれば、よい商品を提供することもできるのですが、プラスアルファでいかに社会に貢献するか、ということを考えることも大切です。バブルのときには、あれほどフィランソロピーの重要性が議論されていたのに、バブルがはじけると全く議論されなくなってしまった。もちろん、法人税や固定資産税の納税自体が社会貢献というのも事実です。でも、企業には、欧米の企業のように社会資源としての社会貢献の自覚を持ってもらいたいですね。

〇今度新たに導入される「介護予防」の効果は期待できるのでしょうか。
 高齢化が進み、介護給付費が上がるなかで、今回の改革案にいう介護予防の一番の狙いは、財政的な面が最初にあると思います。ですから、「要支援」、「要介護1」の人は本当に介護が必要なのかを見直すことになります。例えば、日本の特養の入所者の平均年齢は欧米に比べると10〜15歳くらい若いのですが、自分で生活できなくなったときは施設に入所するが、できるところまでは自分で頑張るという自立心が大切なのです。そういう点で、日本人は社会保障への考え方について自立心が低いと思います。ですから、今後の介護保険の改定のなかでは、その真価が問われます。

 それともう1つ。この5年間、居宅介護、施設介護のなかで、要介護度が軽くなったケースについては成功報酬が一切ありませんでした。サービス提供者にとっては要介護度が軽くなると介護報酬が減り、要介護度が重くなるほど収益があがるので、その部分を改善する必要があります。    

(→次号へ続く)

●プロフィール● (敬称略)
川村 匡由(かわむら まさよし)
 1946年静岡県生まれ。立命館大学文学部卒業後、新聞記者として経験を重ねた後、社会保障・社会福祉の研究者に転じる。日本福祉大学講師、つくば国際大学教授を経て98年旧武蔵野女子大学現代社会学部教授に就任。99年早稲田大学大学院人間科学研究科にて博士号を取得。2001年より現職。

<著書>
「これからの有料老人ホーム」「地域福祉計画論序説」など多数。
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