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市民自治・主権のまちかど福祉(第3回)

 武蔵野大学大学院 人間社会・文化研究科
教授 川 村 匡 由


○今度の改革について、先生が評価される点をお聞かせください。
 地域包括支援センターについては、新たに財源が必要になることや、これまでの在宅(老人)介護支援センターはどうなるのか、という点でなお議論が必要ですが、システムそのものは評価すべきではないかと思います。
また、現行の利益誘導型のケアマネジメントと比較しても、今回の改革では、地域の特性を踏まえながらケアマネジメントのためのネットワークを広げていく、という点で評価できます。加えて、これまでの5年間の成果や実績をキチンと評価し、NPOなども包括支援センターの事業者として想定していたり、包括ケアシステムの一メンバーとして加えたりすることで、利益誘導型にならない中立・公平型のケアマネジメントにしていくという点にも期待しています。

 もうひとつは、小規模多機能型施設によるサービスの提供です。実は、私はグループホームや宅老所の立ち上げやそのネットワーク化に関わっていますが、全国的にみますと、事業者の体力や地域の特性、自治体の支援の程度にバラつきがあるのが実態です。でも、今までの小学校単位、中学校単位の地域支援では、まだ十分にきめ細かなサービスにはならないと思います。そこで、今後、よりきめ細かなサービスを提供していくためには、町内会や自治体単位、あるいは団地ごとなどの単位での小規模多機能で、しかも介護に限らず、社会参加や健康づくりなどにまで社会福祉を普遍化し、かつこれらのサービスを連携させて考えることが必要だと思います。

 ただ、そうなると、行政では財源的にも、人材的にも限界があります。ですから、だれよりも地域を知っている住民が自分の住んでいる地域づくり、まちづくりに関心をもって社会参加をしていく・・・、そこに地域福祉の重要性がありますし、課題があると思います。

○ 現在では、かつてのように地域組織が機能していない地域が多いなかで、地域福祉を研究している方のなかには、昔のような地域連帯を求めている印象を受けます。
 そもそも、現在の市町村は、自然に発生したコミュニティではなく、過去に何度かの合併を繰り返した結果によって生まれた「行政村」ですから、コミュニティとして考えるのには無理があると思います。私は、地域福祉に関わっているなかで、「住民」という概念自体がきわめてあいまいではないかと感じています。

 例えば、住民というと、住民基本台帳に搭載されている人のことであって、実際にサービスを受けている人、あるいは提供している人はその地域の住民かというと、必ずしもそうではないのです。実際は、近隣の地域の人がサービスを利用しているかもしれませんし、サービスを提供している人も別の地域の人かもしれません。ですから、新しいカテゴリーが必要ではないでしょうか。例えば、A市の福祉をよくするためには、近隣の関係住民や事業者も含め、「市民自治」、あるいは「市民主権」で新たなコミュニティ、すなわち、市民社会として新たな福祉コミュ二ティを構築していくことが必要だと思っています。

 そのような意味で、私は、地域福祉研究者には地元での実践も必要ではないかと思っています。私自身、地域の活性化と再生に関わるべきだと思い、昨年、地元の武蔵野で研究会をつくり、プロジェクトチームとともに地域福祉研究の実践を進めています。そうすることで、自分のささやかな理論が言いっ放しでなくなりますし、また、第三者によって検証されると思うのです。もちろん、実際に地域に関わることは大変なエネルギーが必要ですし、手間、ヒマも必要です。でも、自分のやっていることに対し、地域からレスポンスがある。私は、地域との関わりこそが地域福祉だと思っています。

 全国に約3000の自治体があれば、3000とおりの地域福祉の形があるのです。もっと詳しくいえば、ここ武蔵野市だけでも地域社協は13ありますが、実際はもっと多くの地域福祉があると思います。その「地域」は、決して小学校区などの大きなエリアではなく、小地域、さらにはもっと小さな「まちかど」単位の「まかど福祉」なのです。そこで、これらのまちかどでそれぞれのニーズにあった地域福祉を進めていくことが大切なのではないでしょうか。

○ありがとうございました。

●プロフィール● (敬称略)
川村 匡由(かわむら まさよし)
 1946年静岡県生まれ。立命館大学文学部卒業後、新聞記者として経験を重ねた後、社会保障・社会福祉の研究者に転じる。日本福祉大学講師、つくば国際大学教授を経て98年旧武蔵野女子大学現代社会学部教授に就任。99年早稲田大学大学院人間科学研究科にて博士号を取得。2001年より現職。

<著書>
「これからの有料老人ホーム」「地域福祉計画論序説」など多数。
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