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最近、介護保険に思うこと(1)


〇自治体の介護保険事業計画策定にかかわれるなかで、介護保険制度についてどう感じておられますか。

 数市の介護保険事業計画の策定に関わってきたなかで最近感じることは、介護保険の議論に夢が感じられなくなったということです。まず、制度が非常に複雑になっています。第1期計画策定の時は、市民参加型で委員会も元気がありました。市民の関心や問題意識も高く、みんながこれから始まる新たな制度に向けて夢を持っていたように思います。でも、第2期、第3期と進むにつれて、数字の議論が先行し、特に公募による市民委員からの発言がとても少なくなってきているように思います。

 介護保険制度では、多くの面で中央集権化が進んでいるような気さえします。例えば、ある市では、サービス利用者と事業者などが一緒になって、独自の評価プログラムづくりに取り組んできました。私も2年間ほど関わってきましたが、毎月のようにみんなで集まって議論を重ね、去年、やっとのことで在宅サービス事業所対象にモデル的な評価を実施してみました。それによって、第三者評価の妥当性やその問題点の数々を勉強しました。
議論を重ねる中で私たちが出した結論は、評価プログラムを事業者の成績表とするのではなく、「サービス質の向上にむけたプログラム」とすることでした。評価プログラムはあくまでも「ツール(道具)」であり、それをもとに事業者が自分たちのサービスを客観的に見直し、向上すべき点に気づく、それによって市全体のサービスが向上する仕組みが大切だ、ということになったのです。話し合いの中からサービスがどうあるべきかが求められてきたことは、すごくすばらしいことだと思います。

 国から「介護サービスの情報開示の標準化」という新しい制度がでてきました。もちろんその理念は評価できるものです。しかし、これまで事業者の情報開示に独自に取り組んできたところはどうなるのでしょう。もちろん、国は「それは、それでやればいい」と言うでしょうが、実際には、先進的に評価プログラムに取り組んできた自治体や事業者にとっては二重の作業が発生することにもなりかねず、困惑しています。これまでの地域で作り上げてきた取り組みを生かせるようにしてほしいものです。

〇今度の改正では、地域包括支援センターにも関心が高まっています。


 地域包括支援センター(以下、支援センター)がどういう形でつくられていくのかは、関心があります。政令指定都市の規模になると、支援センターの委託先を決めるのは大変な作業だと思います。在宅介護支援センターがそのまま委託を受けることもあるでしょうが、介護保険以降は事業者数も増えており、そう簡単にもいかないと思います。また、より小さい自治体では、自治体の直営で行うところもあるようです。将来的に、サービス供給が支援センターの委託を受けた事業者に偏ったりすることがないような仕組みを考える必要があると思います。そのためにも運営協議会の役割は大きいと思います。

〇介護予防給付については、どのようにお考えですか。

 介護予防給付の議論をみていると、介護が家族志向に戻りつつあるのではないか、という点を不安に感じます。家事援助があまりに軽視されているように思うのです。週に1回、ヘルパーさんが掃除に来て、様子をみてくれるからこそ、ひとり暮らしを続けられるという高齢者も少なくありません。私たちが生きていくためには、リハビリや筋力トレーニングの前にまずは日常生活の確立が必要です。今までの要支援や要介護1の人たちの多くが家事援助サービスを使えなくなる可能性があります。このことは家族の家事負担を増やすことにもつながりかねません。私は、日常生活の確立こそが、介護予防につながると思っています。本来は、被保険者である私たちが、自分たちの暮らし方を描きながら、負担と給付について決めることができるべきではないのでしょうか。国が全部きめるのではなく、もっと地域の人の生活実態に合わせるようにしたらよいと思うのです。スウェーデンでも、ドイツでも、給付と負担については、地域で大きな差があります。暮らし方が異なる地域が共存する国で、なんでも全国一律の基準で行おうとするのは、日本くらいなのではないでしょうか。        

 (⇒次号へ続く)

●プロフィール● (敬称略)

斉藤 弥生(さいとう やよい)

1987年学習院大学法学部卒業後、スウェーデン・ルンド大学大学院政治学研究科に留学。1993年より大阪外国語大学地域文化学科(スウェーデン社会研究)助手、講師、助教授を経て2000年より大阪大学大学院人間科学研究科助教授

【主な著書】
「体験ルポ日本の高齢者福祉」(共著 岩波新書 1994)、「スウェーデン発高齢社会と地方分権」(共著 ミネルヴァ書房 1994)他多数。

 

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