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介護サービスの質の管理(1) 
−比較福祉国家研究の視点から−


○先生の最近の研究についてお聞かせください。

 今は、高齢者福祉の国際比較に関心を持っています。今までは、主にスウェーデンに目を向けていましたが、このところは、ドイツやアメリカなどの違うスタイルの国も意識しています。普遍的で包括的な給付を特徴とするスウェーデン、保険制度を社会保障の中核とするドイツ、市場主義のアメリカの3つのモデルを意識しています。比較福祉国家研究のなかで介護政策をどうみるか、というのが私の研究テーマです。たとえば、日本では、90年代のゴールドプランの時代には、中学校区を単位にしており、自治体を核とした包括的福祉を行っているスウェーデンをモデルにしていました。しかし、介護保険制度はドイツから多くのことを学んでおりシルバービジネスなど民間事業者への期待は市場主義のアメリカモデルの考え方でもあります。

 日本の介護保障は、これら3つのモデルがまざっている形です。そこには、よい面もあるけれど、理念が問われる場面もあります。例えば、介護サービスの質の管理について議論する場合、日本では公的介護保障にしくみがあるのですから、保険者としての義務と責任、行政の果たすべき役割がもっと議論されるべきだと思います。しかし、注目されるのは「第三者評価」「外部評価」です。保険者責任や行政責任の小さいアメリカモデルでの話にすりかわっているように私にはみえるのです。
ドイツは社会保険制度を軸にしており、介護サービスの質については保険者の責任が大きく定められています。スウェーデンは、自治体が直営でサービスを提供してきた歴史があります。サービスの質の管理については、スウェーデンでは自治体が大きな役割を果たしています。

〇ドイツでは介護の質をどのように管理しているのですか?


 ドイツでは、介護サービスの質の保持において、保険者機能を強化しています。2002年に二つ法律ができたのですが、その一つは、「介護の質保証法」です。これは、介護保険の認定審査機関でもあるMDKが予告なしに施設に立ち入り調査でき、さらに事業者の外部評価と自己評価を義務付けるというものです。日本で来年4月から導入される「介護サービスの情報開示の標準化」は、ここから来ているのかもしれません。

 ドイツのシステムで私たちが理解しなくてはならないのは、介護報酬を決めるのは国ではなく、保険者と事業者だという点です。両者で話し合って、契約を結ぶのです。介護サービスの質に問題が発生すれば、保険者はその事業者と契約を結びません。事業者のサービスの質や基準で介護報酬を保険者が決めるのですから、保険者の機能が極めて強いということができます。

〇スウェーデンでは介護の質をどのように管理しているのですか?


 1995年にEUに加盟してからは、「独占を認めない」というEUの決まりにスウェーデンも従わなくてはならなくなりました。つまり、サービス供給が「公」の独占であってはならないのです。ですので、90年代の半ば以降に介護サービス市場に民間参入が増え、介護事業の委託先の選定のために、自治体では入札という方法を取り入れるようになりました。現在は、290の自治体の約9割が介護サービスの民間委託に入札制度を取り入れています。ですから、自治体が入札を通じて、介護サービスの質の管理を行っているといえるでしょう。しかし、入札制度では、自治体は質よりも価格本位で入札する傾向にあります。この点が問題として指摘されています。

 利用者の選択の自由を拡大するという趣旨で、ストックホルム市のように、バウチャー制度を取り入れている自治体もあります。要介護認定により決定された支給限度額分だけ介護サービスを使えるという形ですが、実施の詳細部分は自治体よって異なります。実は日本の介護保険制度もバウチャー制度の一種であるという研究者もいます。現在では、バウチャー制度を取り入れている自治体の3%程度です。

 その他にも、自治体がコンサルタントに依頼してサービス事業所の質やコストの評価をし、次の入札の参考にしたり、オンブズマン制度や監査制度を採用したりするなど、行政主導の質のコントロールをしています。スウェーデンは、人口が850万人と小さい国です。ですから、民間企業が参入するのは、大都市部に限られていて、民間委託が進んでいるといっても、まだサービスの9割は自治体直営である点もスウェーデンの特徴です。        

 (⇒次号へ続く)

●プロフィール● (敬称略)

斉藤 弥生(さいとう やよい)

1987年学習院大学法学部卒業後、スウェーデン・ルンド大学大学院政治学研究科に留学。1993年より大阪外国語大学地域文化学科(スウェーデン社会研究)助手、講師、助教授を経て2000年より大阪大学大学院人間科学研究科助教授

【主な著書】
「体験ルポ日本の高齢者福祉」(共著 岩波新書 1994)、「スウェーデン発高齢社会と地方分権」(共著 ミネルヴァ書房 1994)他多数。

 

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