○現在の援助論は、実際との間に乖離(かいり)があるということですか。
極端に乖離(かいり)はないと思うのですが、まだアメリカの教科書を翻訳したものがベースになっています。決して悪いわけではありません。ただ、アメリカの教科書の翻訳版
がずっとベースになっているので、それを日本の現場でも使えるものにしていく作業が大切です。
○ですが、国によって社会保障制度や社会資源が違うことは影響しないのですか。
援助技術については、日本であろうと、イギリスであろうと、アメリカであろうと、そこは普遍的な部分がありますから、あまり極端にずれるということはないと思います。まず、基本的なパターンがあり、それをそれぞれの国でアレンジすることが必要だと思います。例えば、アセスメントのとき、アメリカだったら質問的に聞いても嫌がられないけど、日本だったらそれは嫌がられる。このようにテクニックの違いはあると思います。でも、基本的なパターンというのは同じです。だから、文化的な背景をアレンジして教科書にすることが大事です。そのため、単に翻訳するだけではなくて、翻訳した物も含めて現場とのやりとりの中から教科書を練り上げていくことが大切です。そうやって練り上げたときに、本当の社会福祉の教科書ができると思うのです。
○今、オリジナリナリティのある教科書を作る時期を迎えているということですね。
結局、なぜ社会福祉がそんなに進歩してこなかったかというと、蓄積がないからです。「教科書」という蓄積があり、「ここまでは学部で一応押さえられている」、「そこから後は現場でお願いします」という相互補完的なことが大切です。
一般的に、現場ではかなりの人が教科書をあまり信じていない。現場の日常では、教科書は必要ない。けれど、試験を受ける時には、試験対策のためにもう一度はじめから教科書つかてt勉強し直すのです。もし、教科書が現場を反映していたら、試験だからといって改めて一からやる必要はありません。また、現場で苦労するようなことも、全部教科書に書いてあれば、それを読めばいいのです。ですが、それは教科書にはなくて、施設のマニュアルや先輩などからの口伝えのようなかたちで伝わっているのです。でも、口伝えでは、その人がいなくなったら忘れられていくので、非常に非生産的で非効率的です。もし、それらの内容が教科書に書いてあれば、その部分で苦労することなく、次のステップにすすめますから、時間的余裕も出てきます。
○福祉は医療ほど普遍的でないことも関係して知識の蓄積について関心が低かったのではないでしょうか。
やはり専門職といいながらも国家資格がなかったことから、研究者も「自分の視点を体系化すればいいのだろうな」という意識で終わっていて、緊張感がなかったと思います。
ですが、実際は、自分たちの視点が実践とどうかかわりを持っているのか。あるいはそれがどういう影響を与え、それをどうフィードバックしていくのかということを考えることが大切なのです。
ですから、介護保険制度の導入などによって、福祉が社会化されてくることで、そのフィールドも広がり、そのフィールドに入ってくる人が多くなる。そうやって今、準備が十分整ってきたのかもしれません。
それと、もう一つ制度的にいうと、やはり医療者が入ってきたことで緊張関係が出てきます。研究者も、単に自分の視点のみを述べているだけでは、すまない時代に入っているのです。
○援助技術に関しても、いろんな人が、いろんな角度からやっていくと思いますが、学校に行ってない人や学校を出て現場に出てしまっているような人の教育はどうでしょう。
介護支援専門員なら介護支援専門員協会がステップアップの道筋をつくっていくでしょう。それは、上級ケアマネジャーという名前をつくる、あるいは「中級」や「初級」などのテキストに基づいて研修していくでしょう。少なくとも上級ケアマネぐらいまでの教科書はできると思います。ですが、そこを超える人については、個人の能力によるところがあります。かなりのハイレベルになると、テキストはないと思いますから、それ以上については、その人のオリジナリティーが出てくると思います。
○現在、社会福祉士の資格がありながら現場に出ない人がいますが、どうお考えになりますか。
それは非常に大事なポイントだと思います。医師とか看護師の場合、何を目指して大学に入学するのかということがはっきりしています。ですが、社会福祉士や精神保健福祉士の場合には、そこがあいまいな部分があります。まだ、社会において社会福祉士の認知は低いので、それを目指したいと入学してきているのではないのかもしれません。そういう、認知度の問題もあるわけです。
(→次号へ続く)
●プロフィール● (敬称略)
岡田 進一(おかだしんいち)
1963 年生まれ。米国コロンビア大学大学院・博士課程修了専門分野;社会福祉学・高齢者福祉学・障害者福祉学高齢者に対する介護・福祉・保健における地域支援や政策などに関する幅広い研究とともに、精神障害者に対する地域支援についても多角的に研究に取り組んでおられます。 |
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