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福祉専門職養成における課題(3)


○社会福祉士で現場にでていない人が多いことについて、社会の認知度が低いこと以外にも要因はありますか。
 実際、就職といっても、受け入れ側の体制も一つの要因であると思います。志望者全員を受け入れるだけのキャパシティが社会にあるかというと、そうではありません。現時点では、志望者全員が施設などに就職できるわけではなく、だからといって、医者のように個人開業できるかというと、それはできないのです。
本来あるべき姿は、医師や看護師、弁護士のようなかたちなのですが、そこまで労働市場ができてない。われわれは専門職を養成しているけれど、労働市場がその全員をま
だ必要としていない、というアンバランスが生じているのです。

○次に、現場の問題として、今、どんなものが聞こえていますか。特に、高齢者に関してお聞かせください。
 やはり、私は、コミュニケーションスキルの問題が一番大きいと思います。専門職側がどういうふうに利用者やその家族とコミュニケーションを取るのかということです。押したり引
いたりすることが非常に大事なのです。ですが、そういったコミュニケーションスキルがないために、しなくてもいい苦労をしなくてはならない。あるいは、上下関係で、上司のコミュ
ニケーションスキルがうまくないために部下がバーンアウトしている場合もあります。上司として、適切な指導の仕方がありますから、そこは専門職としてうまくコミュニケーションを
とることが大事だと思うのです。

○そのための方法論がありますか。たとえば、明確なコミュニケーションスキルというものはあるんですか。
 まだ完全に体系化されていませんが、原則としてはいろいろあります。ですから、やはり、そこを学んでもらうことが大事だと思います。例えば、一番大事なことは、「パワー・ポリティクス」のようなことは、控える必要があります。パワーを見せつけるために何かを指示するようなことは良くないとか、あるいは、感情をあらわにして怒っても、それは効果がないということです。「しかってやった!」とよく自慢している上司がいますが、それは「しかる」ということだけが残ってしまって、部下は、その内容は聞いていないのです。全部は体系化されてないですけど、やはりリーダーの指導パターンのように、基本的なパターンがありますから、それが大切なのです。

○よく、「傾聴が大事」といいます。でも、それはわかっていても、実際に傾聴ができない、利用者の話を引き出す方法を身につけていない、という場合、そういうものは訓練で完全に修得できるのでしょうか。
 100%訓練では修得できない部分もあると思います。以前、私がアメリカで教育を受けたときに言われたのは、「6割ぐらいは訓練で、あとの4割は個人の資質なので変えられな
いところもありますよと」ということです。われわれの援助職というのは、全てを教育できない。アート(技術)の部分もかなりあるということです。サイエンスの部分はともかくとして、アートの部分をどのように伝えるかということが非常に難しい。
カウンセリング、サイコセラピーなどはアートの部分が多く、非常に難しいと言われています。しかし、やはり原則はあるだろうということで、その原則をうまく使いこなせるかどうかというのを教育するということになります。もちろん、中にはこういう職業に向いてない人もいるだろうと思います。ただ、ある程度、おそらく6割ぐらいまではトレーニングでカバーできます。逆にいうと、6割の部分は最低ラインで― それから後はその人の資質の部分でないかと思うのです。

○ほかに先生がお考えになっている課題はありますか。
 やはりアセスメントですね。いわゆる「アセスメントシート」ができたことは、非常によかったのです。ですが、それによって、逆にアセスメントシートにある項目以外のアセスメントについては、あまり行われないようになってしまったのです。

○「アセスメント」といわないときは、みんなでいろんな情報収集をやっていたのが、「アセスメントシート」の枠にはまるものだけがアセスメントだと思うようになってしまったのですね。このアセスメントとコミュニケーションがあれば、大丈夫ですか。
 まだまだあげることはできるのですが、・・・(笑)。あまりたくさん挙げてもきりがないですから、まず、その2 点をきちんとすることが大切ではないかと思います。そのことによって、
ケアの質は大きく良い方向に変わるのではないかと思っています。

○ありがとうございました。

●プロフィール● (敬称略)

岡田 進一(おかだしんいち)

 1963 年生まれ。米国コロンビア大学大学院・博士課程修了専門分野;社会福祉学・高齢者福祉学・障害者福祉学高齢者に対する介護・福祉・保健における地域支援や政策などに関する幅広い研究とともに、精神障害者に対する地域支援についても多角的に研究に取り組んでおられます。
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