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アカデミックラウンジ
介護保険の総括と今後の課題(3)

大阪市立大学大学院 生活科学研究科
教授 白澤 政和


− ケアマネさんのなかには、「なぜケアマネが置かれたのか」、「もっと幅広い活動ができる」という視点がないままに、与えられた仕事を実践している方も少なくないのではないでしょうか。


  だから、ケアマネジャーは、技術の前に「ケアマネジメントの目的とは何か」ということを再認識する必要がある。技術は後からついてくる。しかし、何をするべきかわからないまま技術を身につけても歪んだ方向に進んでしまう。

−先に、居住機能と介護機能を分けるとおっしゃいましたが、居住機能が自己負担であれば、低所得者が差別されてしまうことにならないのでしょうか。

 利用者の最低限の居住を保障するということだが、現在、居住機能について起こっている問題は、新型特養やいくつかのグループホームには、生活保護受給者は入れないことだ。そういう施設は、ごく一部あってもよいかもしれないが、全てが利用できる仕組みが必要だ。自己負担分については、自分で選択できる仕組みを作る必要はある。しかし、払えない人には最低限の保障をするなどして、全ての階層の人が入所できる仕組みを整えることが必要だ。特に、高齢者にはボーダーライン層の人々が多く、そこにも居住機能部分の財源的な支援が必要である。

 日本では、居住機能を社会保障に含めるかどうかという議論がないので、まず、最初にこのことが議論されなければならない。そういう意味では、これからの社会保障は、居住問題を抜きに語れないと思っている。

 アメリカは、1970年代後半に精神障害者のコミュニティケアを失敗したが、その原因は2つある。まず、住宅がなくて失敗したこと。そして、ケアマネジメントがなくて失敗したこと。そういう意味では、日本も住宅とケアマネジメントの問題をきちんとやっておかないと介護保険でコミュニティケアをやっていくには問題があることが顕わになった。

−その2点を改善していけば、介護保険の前途はまだ・・・

 介護保険のなかの矛盾について議論が進めば、狭い道の中で選択肢を探していくことになるが、そうしないと保険料があがって(介護保険制度は)潰れていくだろう。あるいは、高い保険料で甘んじて我慢していく道を選ぶか・・・。
 様々な意味で在宅介護は大変で、在宅の(介護保険サーービス利用者の)自己負担を3%に、施設の負担率を15%に変えろと私は主張してきたが、焼け石に水だと思う。結局、(医療保険でもそうだが)根本的に「在宅文化を創る」という国民内部からの改革が必要だ。

−短絡的に考えた「在宅は安く、施設は高い」というコスト論だけではない話ですね、在宅文化というのは。

 そう。要は、人々は質の高い生活を望んでいるのだから。しかし、そこで、家族を犠牲にすることがあってはならない。家族も自己実現でき、しかも利用者の精神的なサポートもできる方向に持っていかないといけない。
 さらに、今回の見直しではいろんな問題を抱えている。一つは、20歳以上からの保険料の徴収と障害者を対象者に含めることの問題。もう一つは、介護保険と老人医療をいかに一体化するのかということ。これらは、ポリティカルな問題が関与しているから、我々の「あれがいい」、「これがいい」という議論だけではなかなか進まないと思う。

 私は、老人医療と介護保険を財源的に一緒にすることについては、やるべきではないと思っている。財源を一緒にすることと必要なサービスをうまくコーディネートするかどうかは別の問題だからだ。きちんと医療サービスと介護保険サービスをコーディネートできるケアマネジメントシステムを作ることが大切だ。

 また、障害者の人たちがはいってくるには、介護保険制度は、ずいぶん相応しくない制度だと思っている。今の制度は医学モデルに近く、介護認定などにもう少し生活の視点を含められるかどうか・・・。今、そのまま介護保険に入ってくると、障害者がサービスを利用できず、不幸せになるだろう。
 確かに、現在の支援費制度ではうまくいかないということははっきりしていて、この制度は中間地点でしかないと考えている。制度立案上、大切なことは、サービス利用者の観点から「ニーズがサービスを決定する仕組み」でないといけないということだ。しかし、残念なことに、支援費制度は、予算がニーズやサービスを決定する。そこを根本的に見直さないかぎり、支援費制度がうまくいかないだろう。
  だから、だれがどのようにニーズを的確に把握するか、という理論が政策論・援助論を含めて大切だ。そこにアプローチしないかぎり、利用者のQOLについても議論できないし、財源的な予測もできない。

−貴重なお話をありがとうございました。

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