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アカデミックラウンジ
福祉・介護分野の情報化(1)

立命館大学 産業社会学部
教授 生田 正幸


- 先生は、福祉や介護分野の情報化がご専門とお伺いしています。まず、最近、注目しておられることをお聞かせ下さい。

 
福祉や介護のサービスに関する情報の提供や開示について、高いレベルの取り組みを行っている自治体とそうでない自治体との格差が広がりつつあります。とくにはっきりと見て取れるのが、自治体のウェッブサイトの違いで、たとえば、東京都、島根県、名古屋市、姫路市、京都市などのホームページでは、先進的な情報提供・情報開示の取り組みが行われています。
 インターネットを利用すると、誰でも、いつでも、どこでも、情報を入手することができるようになり、情報のバリアが大きく改善されるとともに、地域におけるサービスの質の向上にも大きく貢献すると期待されますので、こうした動きに注目しています。

- そうした先進的なホームページには、どのような情報が掲載されているのでしょうか?

 東京都社会局のウェブサイトには、行政の指導監査に基づく福祉施設の情報が公開されていますし、それに対する施設側のコメントも掲載されています。
 また、名古屋市のサイトでは、特別養護老人ホームごとに待機者数のリストが公表されており、施設ごとの格差が一目瞭然になっています。しかも、同じ表から、各施設のより詳しい情報、たとえば1週間の食事メニューなどについてリンクがはられており、サービス内容を比較することもできるようになっています。東京都や姫路市、京都市などのサイトでは、サービス評価の結果を見ることもできます。
 このような福祉サービスの内容や事業者間の比較といった種類の情報は、これまであまり公表されませんでした。情報がなかったわけではないのですが、何かと抵抗も大きく、行政にとってそれなりの決断を必要とする取り組みだったからでしょう。しかし、介護保険制度の導入にともない、サービスの利用形態が措置から契約へと変化するなかで、「利用者の選択」や「サービスの質」に対して高い問題意識を持つ自治体が公表に踏み切り始めました。 つまり、公表しているところほど、進んだ考え方を持つと見て良いでしょう。とはいえ、そうした決断を行う上で、まだ「人」の要素が大きいようなのですが。

- WAM NET(ワムネット)についてどうお考えですか?


 その役割は、ますます大きくなると思います。私は、ワムネットの専門委員であり、現在のシステムの基本構想にも関わりましたが、ワムネットは、「オープン」と呼ばれている方が、国民に対する情報提供・開示の役割を担い、「コミュニティ」と呼ばれている利用登録を必要とする方が、専門的な業務支援の役割を担うという考え方になっています。とくに「オープン」の方では、福祉・介護サービスに関する全国の事業者のデータベースや行政関係の各種情報など、非常に豊富なコンテンツを提供しており、このようなオンラインサービスを国民向けに国が行っているのは珍しいのではないかと思います。

- ワムネットには、本当にケアマネさんなどが欲しい情報がでていない感がありますが……。

 確かに、空き情報が十分に入力されていなかったり、情報更新の問題があったりすることは確かだと思います。空き情報などは、もっと頻繁に更新しなければならないのですが、事業者さんの方で行って頂くという仕組みのため、空き情報の入力や更新があまり行われていないという現実があります。
 また、ケアプランの作成にあたって、サービスを多様に選択するというよりは、ある程度限られた範囲のサービスを組み合わせて利用する傾向にあるため、結局のところ、ワムネットで情報検索を行わなくても、日頃のつきあいや電話などで得られた情報だけで何とかなってしまうという事情もあります。
 荒っぽい言い方ですが、介護保険になって制度の基本的なあり方が変わったものの、サービス提供への取り組みや考え方については、まだ変化に追いついていない感じがします。しかも、利用者による選択や、それを踏まえたサービスの質の向上などについても環境が十分に整っていません。
 そうした中で、ワムネットについても、ケアマネの方々についても、福祉や介護サービスの向上をはかるために、情報をどのように利用していくのかという点について、さらに取り組みを重ねていく必要があると思っています。
 ケアマネの方が、必要とされる情報は何か、それを提供するにはどうすればよいのか。ワムネットは、市役所や県庁の前に設置されている公示用の掲示板のような役目を担っていますが、より役立つものにしていくための取り組みが必要なのです。       

(次号へ続く・・・)

●プロフィール● (敬称略)
生田 正幸(1953年 滋賀県大津市生まれ)
立命館大学産業社会学部人間福祉学科 教授
専門分野:福祉情報論、高齢者福祉論

<著 書>
『社会福祉情報論へのアプローチ』(ミネルヴァ書房1999年)、
『福祉情報化入門』(有斐閣1997年)、『情報化時代の新しい福祉』(中央法規出版1997年)、『地方公共団体の福祉情報システム』(自治日報社1996年)など。

 

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