−情報の開示や提供を、もっと有効に行うにはどうすればよいのでしょうか。
まず、情報の「提供」と「開示」の関係について説明が必要かと思います。 福祉や介護の分野にかぎっていうなら、「提供」は放っていても出てくるもので、「開示」はしぶしぶ出してくるものと例えることができます。
つまり、何らかの手続きや強制力がないと情報をあきらかにしないのが「開示」、窓口に置かれているパンフレットや広報誌のように自由に手に入れることができるのが「提供」です。
両者は、密接に連携しており、「提供」であきらかにされる部分と「開示」であきらかにされる部分の間には、ある種の「区切り」があると考えてください。この区切りは、固定的なものではなく可変です。情報を発信する側の意向や利用する側の要求によって、開示の対象となるものが提供の対象になったり、その逆になることもあります。
たとえば、先ほどお話しした東京都社会局のウェブサイトで提供されている監査結果に関する情報は、他の自治体では開示請求をしないと明らかにされない可能性があります。つまり、他の地域では「開示」の対象となっているものを、東京都では「提供」の対象にしており、他の自治体よりも提供の幅が広くなっているわけです。それだけ地域のケアマネや住民の方々の得ることができる情報が広がり、サービス利用やサービスの質の向上にもつながっていると言えます。こうしたことは、自治体だけではなく、民間のサービス提供事業者の場合も同じです。
「開示」と「提供」の間にある区切りを動かしているのは、今のところ情報を発信する側の意向、とくに人的な要素が大きいようです。問題意識の高い、先駆的な考えを持っている人が関わっておられる場合ほど、区切りが「提供」の側に広がっているように思います。
しかし、この区切りを動かし提供の側を拡げる上で、最も大きな力を持っているのは一人ひとりの情報の利用者です。情報の活用がもっと積極化し、「こんな情報が必要だ」、「このように提供するべきだ」という声が高まらないことには、「区切り」は開示の方に傾きがちで、結果的に提供される情報の質まで落とすことになります。
つまり、情報の開示や提供をより有効なものにするためには、情報の活用をもっと活発化させる必要があるのです。
−福祉分野では情報化が遅れているということですか。
福祉分野は、他の分野に比べると情報の活用が遅れていると思います。例えば、これまで様々な福祉サービスの提供が行われ、それについて膨大な記録が残されてきているのに積極的に活用されていない。個人情報の保護の関係もあるので難しい面もありますが、事例としての蓄積や類型化、さらには用語の標準化などもあまりなされておらず、単なる記録で終わっています。
多くの福祉施設の処遇記録は、監査を意識してはいても、利用者が入所後どのように変遷してきたのかという経緯を捉え積み重ねることで、処遇に反映させるようには利用されていないと思います。
つまり、日々記録しているけれど、その場その場で「気がついたこと」を記録し、時系列的に利用することもあまりないので、「食事の好みが変わってきた」といったようなことや、状態がどのように改善したのか悪化したのかといったような中・長期的な変化などを定量的に捉えることができず、結果的に経験と勘に頼らざるを得ないのではないでしょうか。
●プロフィール● (敬称略)
生田 正幸(1953年 滋賀県大津市生まれ)
立命館大学産業社会学部人間福祉学科 教授
専門分野:福祉情報論、高齢者福祉論
<著 書>
『社会福祉情報論へのアプローチ』(ミネルヴァ書房1999年)、
『福祉情報化入門』(有斐閣1997年)、『情報化時代の新しい福祉』(中央法規出版1997年)、『地方公共団体の福祉情報システム』(自治日報社1996年)など。
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