※今回は、前回に引き続き、福祉分野で遅れている情報化を進めるためには、情報の開示や提供を有効に行う必要があることから、そのための方策についてお話を伺いします。
<先月号の要約>
福祉分野は、他の分野に比べると情報の活用が遅れている。これまで様々な福祉サービスの提供が行われ、膨大な記録が残されてきているにもかかわらず、積極的に活用されていない。個人情報の保護の関係もあるため難しい面もあるが、事例としての蓄積や類型化、用語の標準化などもあまりなされておらず単なる記録で終わっているのではないか。
多くの福祉施設の処遇記録は、日々、その場その場で「気がついたこと」の記録であり、時系列的に利用することもあまりないので、入所者の状態がどのように改善したのか悪化したのかといったような中・長期的な変化などを定量的に捉えることができず、結果的に経験と勘に頼らざるを得ない状況ではないだろうか。
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記録や情報をうまく活用することによって、一人ひとりにもっとふさわしい援助や支援ができるはずなのですが、現在ではそこまで手が回っていない感じがします。
また、先ほどの情報提供などについても言えることですが、どちらかといえば、情報などはあまり表に出さずにそっとしておきたいといった感覚や、利用者の側でも、普段は自分には関係がないからと無関心で、いざという時には自分であれこれ調べるのではなく、役所や信頼できる人にまかせてしまいたいといった意識があるように思われます。
このような考え方や意識は、従来の福祉のあり方、つまり措置の時代に醸成されたものではないかと思います。措置制度の功績は非常に大きく、それなくして今日の福祉はないわけです。しかし、その反面で、サービスの利用と提供のあり方に大きな課題を残したことも確かです。
情報の利用をめぐる問題も、こうした課題のひとつなのではないでしょうか。
- 今後の情報化についてどのようにお考えですか。
いろんな情報を「公にしていく」、「共有していく」、「活用していく」ことによって福祉や介護を改善していこうという意識、誰かに頼るだけではなく互いに繋がりあい支えあうという意識、−そのカギを握っているのが情報なのですが−が、今後、より重視されるようになると思います。
福祉や介護を支える社会的な資源である「ヒト」、「モノ」、「カネ」の多くが、この先、厳しい状況に直面していくことはすでに予測されている通りです。
言いかえれば、この国の福祉や介護のあり方を改善していく、あるいは維持していくことが、たいへん厳しい状況にあるということになります。
そうした中で、まだほとんど手つかずの社会的資源として残されているのが「情報」です。
情報を活用することによって、より効率的に福祉・介護サービスを提供することができるのではないか、あるいは、一人ひとりにふさわしい効果的なサービスの利用をさらに進めることができるのではないか。
実は、こうしたことはサービス業関係の企業などではすでに実現されていることです。情報を巧みに活用した事業者が優れた事業者として経営的にも社会的にも評価される。情報を積極的に活用したユーザーほど、よりよいサービスを適切なコストで利用することができる。福祉・介護サービスにすべてが適用されるというわけではありませんが、今後、そうした状態に進んでいくことはあきらかです。そのためには、乗り越えなければならないハードルがいくつもあるのですが、それらを克服しないことには福祉・介護の明日はさらに厳しいものになると言わざるを得ないでしょう。
●プロフィール● (敬称略)
生田 正幸(1953年 滋賀県大津市生まれ)
立命館大学産業社会学部人間福祉学科 教授
専門分野:福祉情報論、高齢者福祉論
<著 書>
『社会福祉情報論へのアプローチ』(ミネルヴァ書房1999年)、
『福祉情報化入門』(有斐閣1997年)、『情報化時代の新しい福祉』(中央法規出版1997年)、『地方公共団体の福祉情報システム』(自治日報社1996年)など。
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