−前回は、わが国の保育施策は、戦後から現在まで約60年弱の間に15年程度の周期で4段階の発展を遂げたことをお伺いしました。今回は、これから始まる第5期についてお願いします。
第5期に、限られた資源と財源のなかで、まず、第一段階としてやるべきなのは、55%くらいを占めている公立保育所を一定数社会福祉法人化することです。そうすることで、今、目の前にいる待機児はほとんど解消されます。民営化すると、ニーズがあれば職員を増やすことで対応が可能となります。民営化にはいろんなレベルがあり、制度上では、学校法人やNPO法人、企業が考えられます。関東に行くと、企業などの参入もみられますが、関西では、そのほとんどが社会福祉法人です。
国がもう一つ進めているのは、認可外保育所の認可を進めることです。条件整理をして、最低基準を少し緩めることによって、最低条件を満たすことができるところは認定していこうということです。
その次は、国はやっていないけれど、地方自治体の一部が取り組んでいる独自の認可制度で、認可外を認可外のまま認めていこうということです。代表格なのが東京の認証保育所で、その他にもいろんなパターンがあります。
このように、両立支援が保育所に課せられており、国の方針と同様、私も基本的には、中心的役割は認可保育所がやるべきだと考えている点では一致しています。しかし、違うのは、私は、民間の中でも、できたら社会福祉法人が中心となるべきだと考えているのに対し、国はそれでは時間がかかりすぎるので、他の法人も認可制度の中で入ってよいのではないかと考えています。
−どうして、先生は、社会福祉法人とお考えですか。
まず、社会福祉事業で営利を生むためには切り詰めることができるのは、職員の人数や人件費しかなく、保育料から利潤はほとんどありません。そこに企業が参入すると、公益事業をやっているわけではないので、営利を生み出す構造にならざるを得ない。となると、職員の人件費や人数にしわ寄せがきます。
もう1つの理由は、子どもの数は、短期間で減っていくなかで、社会福祉法人は撤退が許されない法人ですから、合併、広域社会福祉法人への売却、国庫没収などにならないために、その事業にあらゆる精力を傾けることになります。一方、企業の場合は、利益を生み出さなない場合は撤退できることから、結局、「保育」が投資対象になってしまいます。ですから、今の段階で介入させることは、不安定な状況を引き起こし、子どもたちをいたずらに競争に巻き込むことになります。
保育の15年のスパンのなかで考えたときに、今の段階では企業が入ってきても撤退しか見えない中で、企業をどんどん入れる意味はないでしょうし、企業も簡単には入ってこないでしょう。企業が入ってくるとすれば、完全な競争原理になってくる可能性はあるけれど、今の認可制度の中では旨みは少ないと思われます。
このようなことから、企業が参入することに積極的ではないのですが、社会福祉法人だけにこだわっているわけではありません。学校法人には、いずれ開放すべきではないかと思います。幼稚園と保育所の制度の並列化が考えられない、むしろ一元化するべきだという中で、学校法人を救済しなくてはならない。民間の保育所数は増えているが、幼稚園は減っていて、どんどん経営難になっていて、ガラガラのところがたくさんある。今の幼稚園の職員や設備が3歳未満児が主となる待機児対策に活用できるのであれば、幼稚園は、税の投資量としては少なくて待機児対策ができます。長期的には保育所と一緒になるのですから、私立の経営者の将来像として考えられるのではないでしょうか。
去年、「少子化対策プラスワン」が厚生労働省から出されたのですが、それをもじって、「5つのプラスワン」という5つの課題を考えました。1、2、はすでに言ってきたことです。3つめは、保育からも積極的に就学前対策の再編成を考えていく時代ではないかということです。しっかりとした幹のないところに枝をたくさんつけるのではなく、根っこから子どもの育ちに沿って全ての子どもにとって就学までに何が必要なのか考えなくてはならない。
子どもは、保育と教育という2つの別々の道でそだち、小学校で合体するのですが、年齢に応じて保育と教育が必要なのであって、保育所の子どもに教育が必要ではないということではありません。幼稚園、保育所に限らず子どもたちに対して、就学前に社会が何をするべきかを改めて問い直す時期に来ているのではないかということです。
(次号へ続く・・・)
●プロフィール● (敬称略)
山 縣 文 治(1954年生まれ)
大阪市立大学大学院生活科学研究科 教授
<著 書>
「現代保育論」、「社会福祉論」、「よくわかる社会福祉」、「よくわかる子ども家庭福祉」、「家族援助論」ほか多数。
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